異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
感情は、乏しいほうだ。
食欲ばかりで、ほかはうすい。痛いとか辛いとかはいやだけれど、やれと云われればやるくらい意思も弱い。
でも、腹がたったら、解決しないと引き摺ってしまう。だからこれは自分のため。
ぐっすり眠ってお腹いっぱいおいしいものを食べても昨夜の話には腹が立つのだから、俺はウロアに怒っているのだ。
ぎゃふんと云わせる。絶対。
「とにかく、俺がどこでなにしてても自由でしょ。セロベルさんは関係ない」
「俺にはまきこんだ責任が」
「あれ? 俺がここにおしかけた気がしてたんだけど、気のせい?」
「だから……」
セロベルさんの声が中途半端に途絶えた。
肩越しに後ろを見る。「えーと、気にしないで」
サッディレくんが、アーチから顔を覗かせていた。
セロベルさんがぱっと両手をあげる。俺は向きを変え、オーブンの様子を見た。「マオ?」
「うん」
「クッキー、足りないっす」
サッディレくんがおずおずと云う。俺は頷いて、クッキーの包みが詰まったかごを渡した。
サッディレくんはぺこぺこして、食堂へ消える。
セロベルさんが頭を抱えていた。俺はストックの様子を見る。もう少し煮込むかな?
「あいつ。間が悪い」
「セロベルさん、俺今夜もおやすみもらいますからね」
「お前な!」
「だって、怒ってるんですよ俺。凄く」
澄んだ綺麗なだしがとれた。収納空間へいれておく。
お昼が過ぎた頃、仮眠をとって、夜に備えた。
グロッシェさんはあんまり話してくれないが、酵母をあたためてはくれている。そこまで嫌われてはいないのかな。
セロベルさんは不機嫌で、オーダーをしめきった後、俺に耳打ちしてきた。「俺もついていく」
「だめ」
「でも」
「セロベルさんとでかけたら変でしょ」
セロベルさんに好かれてるけどすげない、という役どころだからな。
セロベルさんはむすっとしていた。
諸々済ませて、お弁当はサッディレくんとアーレンセさんへ託し、ローブの上にマントを羽織って外へでる。
今日は……満月! 星は少ない。
トーリュス邸あとには、みちを覚えているのですぐに着いた。今日も盛況なようだ。千鳥足のおじさん達が、門のなかへ吸い込まれていく。
……ん。
そう思って見ないと気付かないのだろうが、……茂みからファーの端っこがはみでてるよリッターくん。
近付いていった。覗きこむ。「お」
「今日も張り込み?」
リッターくんは、白い息を吐く。「昨日、騒ぎがあって、彼奴が出てくる前に帰らざるを得なくなった」
この子、喋るの苦手なんだろうなあ。