異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ちんちろりんのいかさまで、自分の番がまわってきた時に、特定の目の出易いさいころに持ち替えて点を稼ぐ、という手法があるらしい。
順番がまわってきたら、前のひとからさいころを手渡される。自分が振ったら、さいころを拾って、次のひとに渡す。
手渡されてから振るまでに、いかさま用のさいころに持ち替え、降った後拾ってから次のひとに渡すまでにもとのさいころに戻す。
おそらく、それをやったのだろうとのこと。
「リェンくん、大丈夫なの?」
グエンくんに訊いてみた。頭を振って、グエンくんはリェンくんを促す。「リェン、横になったほうがいいよ。その顔色じゃ誰もお前のこと買わない」
「……解った」
リェンくんは、口許を手で覆って、奥へと消えた。
グエンくんがゴブレットへ口をつけ、まずそうに顔をしかめる。
俺は黙って、グエンくんのゴブレットを掴み、カウンタへと歩いていく。バーテンに云った。「りんごとオレンジ輪切りにして。それ、ワインにいれて、あっためて。シナモンと八角もいれてよ」
完全にアルコールの飛んだヴァンショーを手に戻る。熱魔法っていいな。かまどもないのにお酒を煮切ってた。
「どうぞ」マグを差し出す。「さっきよりはましだと思うよ」
「……ありがとう」
グエンくんは、マグを両手で持って、ひとくち呑んだ。「あ……おいしい。ありがと、マオ」
「ううん。お酒苦手なんでしょ? 無理に呑まないほうがいいよ」
「うん……」
グエンくんは頷く。
「いかさましたやつが連れてかれるの、何度見ても慣れない」
「うん」
「……誰もなにも云わないんだ。さっきみたいに。一緒に来てた仲間も。それって凄く……凄くこわい」
慥かにこわい。俺は頷く。
グエンくんはマグを強く握りしめている。「リェン、お客と……そいついかさましてたらしくて、ばれちゃって。奥まで、捕まえに来たんだって。その……最中だったんだけど」
「え」
「リェンは関係ないから。なにもされなかったけど、お客のほうは、逃げられないよう、魔法で顔を焼かれて」
うええ、まじか。
いかさまは、結構あること、らしい。グエンくんも、お客になってくれそうなひとと賭けをしていたら、突然そのひとがつれていかれたことがある。
「色々やり口があるんだって。でも、大体、つかまる……もしかしたら、智慧者か、裁定者が居るのかも……」
智慧者、は聴いたことあるな。裁定者も、特殊能力だろう。
グエンくんはひきつった笑みで、ふるふると頭を振った。「そんな訳ないよな。智慧者でも裁定者でも、凄くめずらしいし」