異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ジーナちゃんがちょっとだけ笑みを浮かべる。「ありがとう」
ミューくんは頭を振った。
「でも君は俺を好きじゃない。それに俺だって、まあ結婚しても失敗ではないかな、くらいの好きだ。それで君と結婚なんて、ばかげてる。君は、取引可能な物品じゃない。俺もそうだ。だろ?」
ミューくん、偉い!
感激した。ジーナちゃんのことを、ちゃんとひとりの人間として扱っている。しっかりした偉い子だ。おにーさんクッキーあげちゃう。
お皿にざらざらとクッキーを追加した。ミューくんがきょとんとする。「マオさん?」
「ミューくん偉いね。これ、おまけ」
「は。はあ」
最近、ひとをひととも思っていない態度を見すぎたからな。
いや、娼妓はそういう商売じゃんと云われたらそれまでなのだ。お金と云う対価があるからと云われれば。
あの。態度好いひとはいい。優良客。お金払って楽しく遊ぶ系。賭けで勝ったら相手してよっつって、負けたら負けちゃったなてへっで気が済むようなひと。
でも、こう、客のなかにはどう考えてもくずなやつらが居てな。お客さまだからってなにもかもゆるされると思うなよってな。特に娼妓だったら金払う前からキスくらいしていいと思ってるやつ。
ううっ、荒んでる心にミューくんの言葉が滲みた。いい子だー。
ジーナちゃんがくすっとした。「やっぱりかわったひとね。……ミュー、わたしだって、あなたのこと好きだわ」
「よく云うや」ミューくんが呆れ顔になった。「からかい甲斐があって、お菓子を横取りしても怒らないからだろ?」
「あらよく解ってる」
「君にゃ勝てないよ俺は」
ミューくんがテーブルへ突っ伏した。
ふたりは暫く、低声でお喋りしながらお茶を楽しんでいた。
帰る前に、カウンタまでクッキーを買いに来て、ミューくんは苦笑いした。「マオさん、いやな話聴かせちゃって、すみません」
「ううん、気にしないで」声を低める。「黙っとくから」
「ほんと、ごめんなさい……クッキー、いつつください。包みに」
「はーい」
クッキーの包みを渡し、お金をうけとる。ジーナちゃんはぼーっとしていたが、俺と目が合うと会釈をくれた。
「チェスくんに宜しく云っておいて」
「はい。また来ます」
「わたしも。お菓子、次もおいしいのをつくっておいてね」
ジーナちゃんは、ドレスのスカート部分を、ぱたっとはたく。剣の具合をたしかめたのかもしれない。
ふたりは腕を組んで出ていった。