異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
くらがりから飛び出してきた人物を、一撃で沈める必要は、そんなにはないだろう。
でも、されきはそれをしないといけなかったし、し損ねた。だから俺はされきの腕を掴んで、今度はなにも云わずに偸利を発動させた。
されきが崩れ落ちる。こいつには色々聴きたいことがあるから、死んでもらっては困る。すぐに確認した。……正常。
洗濯紐はまだあるのだ。俺はかみなりと同じように、されきも正座させてしまうと、リボンで目隠しをした。
かみなりが身動ぎする。まずい、魔法をつかわれたら困る。
精神的なショックで魔法はつかえなくなるんだよな?
「……あ、なんだこれ? おい、ハツァルか?! ふざけるなよ!」
俺は足枷の残骸を拾うと、ためらいなくかみなりの股間を殴打した。
あー痛そ。でも正当防衛だからね。魔法つかわれたら困るもん。
かみなりは悲鳴も上げず、激しく身を捩った。俺はごほんと咳払いして、声をつくる。どーれーにーしーよーうーかーなー。
「……あー。叫んだら、もう一度、殴るからね?」
低い声を出すのは辛いので、高い声にしてみた。声変わり前の感じ。カウンターテナーも顔負けだぜ!
暴力行為にはなれていないので、変な方向にはしゃいでしまっているな。反省。
かみなりが怯えた。それはもう解り易く。「だ。……だれだ」
「誰でもいいでしょ。それより自分が何をされるのかを気にしたほうがいいんじゃない?」
ひひひと笑ってみせる。「自分がやってきたことは自分の身に返るんだよ」
「だっ、誰なんだっ、まさかこねずみどものっ!?」
流石に可哀相なので、今度は肩口をぶっ叩いてあげた。かみなりは歯をくいしばり、上体を折る。
「叫ぶなと云ったろ。それとも殴られたいの? ぼくちゃん?」
からんと足枷の残骸を投げた。ここの部屋はじゅうたんを敷いていなくて、寒々しい。
ごほごほと咳きこんでみせた。「ああいやだ、寒い。さっさと帰りたいな」
「……か、金が目的か? そ、そ、それなら、幾らでも出す。だ、だから」
「そうお。お前が殺してきた子は、まともな命乞いもできなかったろ? 差し出すものがなにもない、弱者を狙ったんだもんな?」
そう、かまをかけたら、否定はなかった。確定だ。
「誰にも云わない、か、ばらしてやる、か、どっちが多いの? 命乞いのあとに云うのは?」
「……た、助けてくれ、たのむ、おれは違う、はつぁるに誘われて」
頭を掴んだ。かみなりはみっともなく泣いている。
偸利をつかった。加減はしたつもり。かみなりは、またお寝んねした。