異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
女性のほうは、ツァリアスさんの奥さんだそう。どうやら、かけおちらしい。
「大丈夫なんですか、それ」
「どうだろう。あいつの特殊能力なら、大丈夫なのかもしれねえけど」
「特殊能力」
「ああ。あいつは開拓者だ」
……は?
開拓者って、この世界での最高神……だよな。それと同じ名前の特殊能力。
絶対チートじゃん。
セロベルさんはせかせかとお茶を淹れ、運んでいった。チート……だと思うのだが、ならあの憔悴っぷりはなんだろう。自分ひとりならなんとかなるけど、まわりには影響を及ぼせない、とか?
解らないが、どれだけチートな特殊能力だとしてもおなかはすくだろう。甘いものも食べたいだろうし、と考えて、クッキーを用意した。余ったクッキーに、ローストしてお砂糖と水飴のシロップをまとわせたナッツをのせたものだ。お砂糖だけだとかりっとしておいしいのだが、とろっとしたシロップを食べたい気分だった。
なんか、なんだろう。つかれているのかな。
ぼーっとしていた。クッキーを数枚かじる。おいしい。低血糖かな?
クッキーをいれたお皿を運んだ。食堂では、セロベルさんとツァリアスさんが低声で話しこんでいる。
「どうぞ」お皿をテーブルへ置いた。「おかわりもありますからね」
ツァリアスさん夫婦はぺこっと会釈して、もごもごとお礼を云う。俺は目礼を返し、リッターくんのテーブルへ行った。
リッターくんはオムレツをお匙ですくって、パンへのせて食べている。なんとなく隣へ座った。
テーブルへ両肘をつく。「おくちにあう?」
返事はない。……リッターくんはちょっとだけ困ったみたいな顔で、小さく頷く。シアイルって、食事中の会話はマナー違反なのかもしれない。
「おかわりほしかったら云ってね」
あ、リッターくんの髪の毛、よく見たら蜘蛛の糸がついてる。外じゃ気付かなかった。
手を伸ばして、蜘蛛の糸を指にひっかけた。くるくるっ、とやって取り除く。
リッターくんが目を何度か瞬かせた。俺は指についたねばねばをおとす。「くものいと。リッターくんって案外間が抜けてるね」
リッターくんは肩をすくめた。無表情で。