異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「じゃ、……」
「……なんです」
「でも主人は悪くないんです……」
セロベルさん達の会話が、断片的に聴こえる。なんだろう。なにか、厄介に巻き込まれて、逃げてきたのかも。
そういうひと多くない?
気の所為かな。俺は溜め息を吐く。
「……大丈夫か」
「うわ吃驚した」
久し振りにリッターくんの声を聴いたので、椅子から転げ落ちそうになった。
リッターくんは無言で俺の腕を掴み、椅子にちゃんと座らせてくれる。「ああ、ありがと」
「……脅かして済まない」
「ううん、俺がぼーっとしてただけ。おかわりは?」
必要ない、とリッターくんは頭を振る。動作は大きいけど、顔の表情は変わらない。……ジーナちゃんもそうかも。
リッターくんも、許嫁、いるのだろうか。もしかしてすでに結婚していたりして。
中学生なのに大変だなあ、と勝手に同情して、俺はリッターくんの頭をぽんぽんと撫でる。「頑張ってるねえリッターくん」
「……いや、特に頑張ってはいない」
「じゃあ、頑張った時の為に、先に誉めといてあげる」
なんだその理屈、と自分の言葉に疑問はわいたが、リッターくんは小さく頷いた。図体は大きいけれど、中身はまだまだおこちゃまだ、と思う。
「マオ」
セロベルさんの声に目を遣る。「はい」
「ちょっと……こいつら、暫く泊める。それで、……」
歯切れが悪い。どうしたのだろう。
と、リッターくんが唐突に席を立った。
「失礼する。代金は?」
「ああ、いいよ、おくってもらったお礼」俺も立った。「りったーくん?」
「俺が居たのでは喋り辛いだろう。俺も詳しく聴きたくはない。煩わしいことになりそうだから」
めずらしく長々と喋ったと思ったら、面倒に巻き込まれたくないから帰るよ! (意訳)って、凄くリッターくんらしいな。いいと思います。
頭をぽんぽんしたら、リッターくんはちょっとだけ表情をゆるめた。「またおいで。今度はお昼に」
「……来てもいいのか」
「どうして?」
「……いや。では、また」
ほっぺにちゅっとされた。
……それで、何故なにか待ってる顔をしているのですか。俺にもやれと?
シアイル式の挨拶、みたいだ。セロベルさんが停めにはいったりはしない。してくれない。
仕方ないので、軽く爪先立って、リッターくんのほっぺにちゅっとやった。ぴっちぴちのお肌。若いなあ。
リッターくんはこくんと頷いてから、颯爽と出て行った。後姿が無駄にかっこいい。若武者感ある。