異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
還元はものを素にし、世界そのものへ還す行為。
ただし、加工に手間ひまがかかるもの、そもそも加工方法が解らないものは、還元によって得られている。その代表が紙と釘と鉛筆(の芯。でも鉛筆と呼ばれている)。
セロベルさんがサンドウィッチを包み終え、お茶を淹れてくれた。
「紙はつくるのが手間なんだろ、知らねえけど。だから、草木を還元してつくるらしい。っても、原料にできる植物が限られてて、紙農園がある」
「じゃあ、羊皮紙は?」
「当たり前だろ。羊の皮を還元するんだよ」
そう云うあれなのか。まじで?
唖然とする俺に、セロベルさんは困惑顔で、お茶のはいったマグをくれた。「釘だって進んでつくるやつはまれだぞ。開拓者に纏わる神聖なものだからな」
「人工釘はつかわないで家を建ててほしいってひとがほとんどだものね。わたしだって、もしうちを改修するなら、還元してできた釘のほうがいいわ、絶対。安心できるし、安いもの」
還元されてできた釘を「釘」、ひとの手でつくられた釘を「人工釘」と云うのか。還元されたもののほうが主流だからだろう。
異世界舐めてたわ。そうだよ、ここって異世界だった。訳解らん方法で釘くらい出てくるわな。
自分がまぬけすぎて、穴があったらはいりたい。思い返してみれば、第一異世界人ダストくんだって、還元して肥料にする為に、沙漠でやすでをつかまえていたじゃないか。という可能性を念頭に置いておくべきだった。
お茶をすする。どうやってごまかしたらいいのか解らない。常識が欠如していると思ってくれないかな? こう、かまぼことかちくわはあの形で海を泳いでいる生きものだと思っているひと、みたいな。
「マオって、版元なの? それとも司書?」
「……え」
「ひとの手でつくられた紙は丈夫だから、本につかわれてるでしょう。本に関係するの職業のひとなら、扱ったことがあるだろうし」
そうなんだ。知らないことばかりでほんと、ひやひやする。
俺ははははと笑って、クッキーのはいったかごを示した。「すみませんとんちんかんなこと云っちゃって。常識ないんです。クッキーどうぞ」
笑ってごまかせ作戦だが、なんと成功した。セロベルさんとリエナさんが一瞬、とても気の毒そうな目をしたのだ。まともな教育を受けていないと同情されたみたい。魔王とばれるよりは二億倍ましだ。
ジーナちゃんはクッキーをほりほりかじっていた。マシュマロをはさんだものは、丁寧に紙で包んで、スカートに隠してしまっている。まじで構造が解らん謎スカートである。