異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
片付けも大切なので、お皿洗いをジーナちゃんと並んでやった。
ジーナちゃんはグロッシェさんの指導をきちんと聴いて、実践している。お湯をつくるのも失敗しなかった。ちょっと熱いけど、油汚れの落ちはそのほうがいい。やっぱりかなり真面目な子だな。手抜きの方法も教えとかないとパンクしそう。
「なあに?」
「え?」
「わたしの顔、おかしい?」
「ううん」
見詰めてしまっていたようだ。頭を振って否定する。「美人さんだよ」
あ、今のは語弊があるかなあ、口説いてると思われたらどうしよう。
ジーナちゃんは二・三度瞬いて、ふっと小さく笑った。「ありがとう。でも、お世辞はいらないわ」
いやいやお世辞じゃないです。もとの世界だったら、その辺歩いてるだけで写真撮られてネットに出回るレベル。プロポーションも凄いし。
その辺を巧いこと伝えたいのだが、どう云ってもセクハラになりそうな気がする。俺はもごもごと、お世辞じゃないよと云うにとどめた。
「わたしが本当に美人だったら、ミューがあんなに結婚を嫌がらないでしょう?」
「えーと、あれはいやがってるって云うか、ジーナちゃんのことをちゃんと考えてるってことじゃないのかな?」
「わたしは、家の一員として、果たすべきつとめを果たしたいの」
低声でそう云って、ジーナちゃんは手許に目を落とす。「わたしがしあわせだとか、意思がどうだとかは、必要のない配慮だわ」
それはおかしい、と思うのだが、ディファーズの上流? 階級ではそういう考えが当然なのかもしれない。それにジーナちゃんは、「ミュー以外の男と結婚するなんて死んでもいや」とまで云っている。好きか嫌いかで云えば好きなのだろう。家の思惑とか、親のことは差っ引いても、巧くいったほうがいい気がする。
俺はジーナちゃんから目を逸らした。「ミューくん、いいこだよね」
「そうね。癒しの力があって、入山試験を一瞬で通って、ファバーシウス家の長男で。いい縁談は、掃いて捨てるほどあるのよ、彼には」
ジーナちゃんの声には少しだけ、悔しさのようなものが滲んでいた。
洗った食器を布巾で拭く。ワッフル加工のしてある布巾で、水分をよく吸収してくれるので役立つ。つかったあとは、厨房の隅にある洗濯紐にかけておけば、グロッシェさんが綺麗に洗って乾かしてくれる。
「これって、ディファーズにもあるのかしら」
ジーナちゃんは流しのなかを覗き込んだ。視線を辿ると、食器洗いにつかうへちまがある。アクリルスポンジがない代わりに、乾燥させたへちまの繊維をつかうのだ。海綿は居るのかなあ?