異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
包囲網が敷かれているらしいと解って絶望はしたが、顔に出さないように努めた。ばれたら死、滅却、と、頭のなかで渦を巻いている。
そう云えば……封印ってなんなんだろう? 滅却は、魔を滅することだよな。封印は、やっぱり、魔を封じるのだろうか。でも、滅却ができるならいらないよなあ。
それとも、魔を封じれるのかも。悪しき魂とか、そういうものだけなかったことにできる、とか。
だったらいいなあ。だったら、生き残れる。
思わず溜め息を吐いた。キャベツをもぐもぐしているセロベルさんが、ちらっとこちらを見た。「疲れてんのか」
「いえいえ。おかわり要ります?」
「いらねえ」
焼きあがったケーキをとりだした。材料がなくなったのでもうお仕舞。
ツァリアスさんが戻ってきた。ご飯を用意する。「どうぞ」
「ありがとうございます。セリィ先輩、ここのお客さんは好いひとばかりですね」
「……まあな」
セロベルさんは照れたみたいだった。俺とツァリアスさんは顔を見合わせ、笑う。「笑うなよ」
「だって」
「セロベルさん可愛い」
口を尖らせてしまった。そういうのが可愛いんだって。
「そういや、あのぼっちゃん、すげえな」
お客さんが居なくなり、セロベルさん、ツァリアスさんと、汚れた食器を回収する。
「ぼっちゃんって、ミューくん?」
「だっけ? 癒しの力をふたつ持ってるって」
セロベルさんは腰をまっすぐにし、軽く伸びをする。背が高いから頻繁に伸びをしないとつらいみたい。
「……怪我人の場所が解る、みたいなこと云ってたろ。普通、癒し手でも解らねえ。癒し手になる前から解るってのは、癒しの力が強いってことだ」
「そうなんですか」
「ああ。高名な癒し手は、怪我や病を隠してても解るし、見ただけでどの魔法をつかえばいいか判断できるんだと。あのぼっちゃんは、癒し手になる前からそれ並みってことだ。いや、隠密を見破るくらいなんだから、癒し手としては最上級だろう。慥かに豊作すぎるな」
やっぱり包囲網。つらい。
お風呂にはいりたいなあ、とぼやいたら、ツァリアスさんがお湯をわかしてくれた。小さい浴槽なので、たいして疲れないとのこと。魔法って便利。
体も頭もせっけんでよーく洗って、ぬるめのお湯にじっくり浸かった。お風呂最高。きもちいー。ついでに、髪を整えとこう。まだまだ賭場通いは続けないといけないから。
崩潰で髪を整えた。今日辺り、そろそろ借金について打診がないかなあ? いい加減懐が淋しすぎる。