異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
目を白黒させているサッディレくんに、セロベルさんが笑いながら、リッターくんが魔力切れを起こしていたことを説明した。
途端に、サッディレくんの眉が下がる。ヨーくんも姿勢を正した。
「なんだ」
サッディレくんが申し訳なそうに云った。「云ってくれたらいいのに。マオ、心配してたんだ」
「全然そんなふうに見えませんでしたけど……」
「シアイル出のやつってああいうとこあるぜ。貴族なんだろ」
「みたいですね。えっと、ロヴィオダーリって」
「ロヴィオダーリか? まじかよ」セロベルさんの耳がぱたぱたした。「へえー、あいつかあ」
なにか知っているのだろうか。
セロベルさんが下山する直前、各地の井から送られてくるキャラシートを見る機会があったそう。
補助の教官のなかではそれなりの期間勤めていたセロベルさんは、推薦は出来ないけれど教官へ進言はできる立場だった。なので、めずらしい特殊能力・適職、或いは高い能力値を有する少年少女のキャラシートを見て、推薦入山に足るか否かを考え、意見していた訳。
そのなかに、リッターくんのものもあった。リッター、という名前は、シアイル系ではたまにあるので、それだけでは解らなかったそう。リッターくんはそのままリッターだが、リテールとかリーテッシュとかの通称の場合もあるから。
で、「リッター・ロヴィオダーリ」は、シアイルの貴族の子ども。セロベルさんが目を通したキャラシートによると、能力値も高く、特殊能力も幾つか持っている。
その辺は守秘義務があるのか、セロベルさんは詳しく云わなかった。けれど、しきりと感心しているから、やっぱり凄いパラメータなのだろう。「不倒」もあるもん。
ヨーくんがいじいじと、サッディレくんの髪で遊んでいる。「シアイルの貴族かあ」
「でも、推薦するほどじゃなかったんでしょ? セロベルさん」
何故だかサッディレくんは焚き付けるようなことを云う。
セロベルさんは頭を振った。「推薦に足る、と意見はした。あんな能力証明証は、後にも先にも一回きりしか見たことがない。教官も推薦すると云ってた」
推薦、と云っても、試験がない訳ではないのか。リッターくんまだ受かってないって云ってたから。入山って難しいんだなあ。
サッディレくんが渋い顔になっている。今日は機嫌がよくないみたいだが、どうしたのだろう?
警邏隊のひと達は、なんとなくほっとした様子で出て行った。ヨーくんは、髪を触ったことをサッディレくんに謝って(サッディレくんは不機嫌そうだったけど怒りはしなかった。損なわなければ触るくらいはいいみたい?)。
サッディレくんの機嫌が悪い理由に心当たりはないか、セロベルさんに訊いてみた。セロベルさんはお茶の道具を洗いながら、こちらを見もせずに云う。「あいつ、妙な勘違いしてんだよ」
「勘違い?」
セロベルさんがこちらを見た。低く、すごーく低く、云う。
「俺とお前ができてるって」
できてる。