異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ジーナちゃんと目が合った。会釈される。
会釈を返しつつ歩いていった。ジーナちゃんの左右の人物は俺を見止め、軽く会釈してくる。
テーブルの傍に立った。こちらの世界のマナーが解らん。こっちから話しかけるもんなのかな。
「ごきげんよう」
! 生リアルごきげんようだ。スッゲエ。まじでごきげんようっていうんだ。
云ったのは、ジーナちゃんのお母さんとおぼしき女性だった。にっこりしている。おにいさんらしきひとのほうは、俺をまじまじと見て、頬をひきつらせている。
「母さま、これは……」
「お黙りなさいナッツァリア。ナオさん?とおっしゃったかしら」
「マオよ、おかあさま」
ジーナちゃんが、沈んだか細い声で云った。ジーナちゃんのお母さんはにこにこして娘の手を握る。母娘はどちらも、襟や胸元、袖口に豪華な刺繍の施された、濃紺のドレスを着ている。
「そうね、マオさんだったわ。ジーナにお料理を教えて下さったそうで……どうもありがとう」
なんと云ったらいいのか解らない。言葉に詰まっていると、ジーナちゃんが目で何回も下を見た。頭を下げておけという意味と判断して、とりあえず頭を下げた。「とんでもないです」
「おほほ」
声のトーンが高くなった。いい印象を与えたのだろうか。
おにいさんのほうは、疑わしそうに俺を見ている。こんなやつに料理ができるのか? という目だ。ピアスしてないもんね。そりゃ、疑う。
「わたくしはジーナの母です。チェルノーラ夫人と」
「はい。かしこまりました」
下手に出たほうがいいだろうと思ったのでそう云った。チェルノーラ夫人はにこにこだ。「感じのいいかたねえ」
「母さま」
「お黙り」
チェルノーラ夫人は息子を殺しそうな目で見た。「お前に意見できる口があると?」
ナッツァリア、と呼ばれた、おそらくジーナちゃんのおにいさんは、ぐっと詰まった。しかし、と声を震わせる。「このような者と付き合いがあったとなったら、ジーナの経歴に傷がつきます。ファバーシウス家からどんな難癖をつけられるか」
「そのファバーシウス家のご長男が、家庭的でおいしいお菓子をつくれる女性を妻にしたいと仰せなの」チェルノーラ夫人は冷たーくナッツァリアさんを見詰めた。「お父さまとお前が、ジーナに女らしいたしなみを教える機会をわたくしから奪っていたのよ。お忘れ?」
ばっちばちだなあ。こわい。
ナッツァリアさんは云い返せなかった。こちらにひと睨みくれて口を噤む。気遣わしげにジーナちゃんの手を軽く叩いたから、悪いお兄さんではないのだ、と思いたい。