異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
チェルノーラ夫人は息子をいい負かして満足そうに頷き、こちらを向く。
「今日はお願いがあって足を運びましたの」
「はい。なんでしょう奥さま」
おほほ、とチェルノーラ夫人は笑う。ジーナちゃんがなにか云おうとした。
「お黙りなさいジーナ。……この子は女だというのに、父親や兄と、魔法や剣術ばかりやっておりましたの。許嫁のかたから呆れられてしまうくらいに女らしさに欠けるのですわ。わたくしは、お料理は出来ますが、お菓子になるととても。それで、こちらでジーナにお菓子づくりを教えてもらえるとか」
「はい」
やけに棘のある言葉だったが、それは措いておいて、ジーナちゃん、巧く説得したようだ。ミューくんのアシストが素晴らしい。
チェルノーラ夫人は娘の手を撫でる。
「ところで……この子に見込みはありますの?」
「お嬢さまはきちんとしておいでなので」息を継ぐ。「お菓子づくりは計量をきちんとこなすことを求められます。真面目なかたは上達もはやいです」
半分本当で半分嘘だ。普段食べるクッキーやビスケット、パンケーキなら、計量は適当でもおいしい。でも、こういうことを云ったほうがのってくれそうだったので。
チェルノーラ夫人は涙ぐんでいる。「まあ、よかったわねジーナ。あなたときたら、朝から晩まで魔物狩りだのなんだのと、血に汚れない日がないくらいで、そんなに野蛮ではあちらさまに嫌われるのではとわたくしはずっと心配していたのよ。いい機会です。お菓子づくりを勉強なさい」
「かあさま」
ナッツァリアさんが抗議の声をあげた。「ジーナはミューくんとの結婚を楽しみにしているんですよ。こんな得体のしれない者に……」
お客さんが這入ってきたので気が逸れた。笑顔でお茶を注いでまわっていたサッディレくんが顔を曇らせる。
出入り口近くで、リッターくんが息を弾ませていた。
リッターくんは四辺を見、俺に気付いて走るようにやってくる。黒っぽいかっちりした外套と、黒のマント姿だ。いつか市場で見た時の格好。制服というか、軍服っぽいな。髪は綺麗に飾りが編み込まれてあった。
「マオ」リッターくんは数秒、苦しそうに考える。「……菓子をもらえないか。マシュマロの挟んである……」
「ああ、うん、いいけど、どうかした?」
「……上役に見付かった。買えるだけ買って来い、と」
収納空間からとりだした包みを落としそうになった。あれか?市場で怒鳴っていた、マシュマロとジンジャークッキーをご所望のお嬢サマ。
リッターくんはまたしてもよどんできた目で空を睨む。「できたら……生姜のクッキーもあると……助かる」
よっぽど酷い目にあったらしい。声が掠れていた。
「ご飯食べてく?」
「はやく戻らないと……」
「ん。じゃあ、おべんとあげる。生姜のクッキーもあるから安心していいよ」
「そうか」リッターくんは細く息をついた。見るからに安堵している。「助かった」
いいこいいこ、と頭を撫でた。あ、べたべた触ってるわ俺。