異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
アーレンセさんは、あの時本当に、アデイールさんが道に迷わないか心配で後を追った。
でも、前庭で木の根に躓き、それでふたりと距離がひらいた。慌てて追いかけたが、馬車に道を塞がれたり、ふたりがアーレンセさんの予想と違う道を通ったりして、市場の辺りで追いついた。
の、だが、その時アーレンセさんは違和感を覚えた。アデイールさんはジーナちゃんと話しながら、後ろにやった手で地面を指差していたのだ。
どうやらそれは、こちらの世界では同席している相手に悪感情を持っている? 時にやるハンドサインのよう。で、それをやっているということは、アデイールさんはジーナちゃんにいい感情で接している訳ではない。
アーレンセさんは衝動的に尾行を決めた。ジーナちゃんとそこで別れたアデイールさんを追い、暫く行くと、信じがたい光景を目にする。
アデイールさんは、ジーナちゃんのお菓子がはいった木箱を、くず捨て場にたたきこんだ。そうやっておいて、何事もなかったかのように去っていった。
「わたし、吃驚してしまって、でもどうにかならないかと思って、さがしたんです」
「ごみにまみれてね」
サッディレくんが呆れ声を出した。「俺も手伝って、見付けたけど、中身はこぼれてねずみにやられてた」
「ひどい」
聴いていたベッツィさんが、悲痛げに口許を覆う。俺も気分が悪くなってそうした。いいひとそうだったのに。
ツァリアスさんが、お菓子のお皿をトレイへのせる。
「貴族ではよくある話ですよ。おおかた、別の娘さんを推しているんでしょう」
「そんなものなんですか」
「まずは狙っているひとのきょうだいとか、親しい親族を買収して、味方につけるんですよ。そうしておけば自分にどれくらい見込みがあるか解るし、妨害工作もしてもらえますから」
成程。理屈は解るが、認めたくない手口だな。
ツァリアスさんは頭を振った。「ばかばかしいですよね。当人たちは置いてけぼりで、まわりの人間がやりあってるんです」
「でも……あのひと、ジーナさんをはげましてたのに」
ベッツィさんがか細い声を出す。「自分は味方だから、なんでも相談してくれって。相手の男の子は、いそがしいから来れないかもしれないけれど、ジーナさんがどうしてるか伝えるからって……」
「相談したら、変なふうに捻じ曲げて伝えるつもりだろうね。滅多なことは云えないよ」
ツァリアスさんが心配そうに云った。
「そうね」
びくっとしてしまった。
ジーナちゃんが立っていたのだ。俺達の目の前に。
かすかに潤んだ目をすっと伏せ、ジーナちゃんは思いのほか穏やかな声を出す。
「でも、なにを聴かされたって、ミューはわたしのことを信じてくれると思うわ。わたしだってなにがあってもミューを信じるから」