異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ジーナちゃんは、豚の解体が途中なの、と、無表情に出て行った。俺達の様子に違和感があって、隠密をつかってこっそり戻ってきていたらしい。
アーレンセさんが口を押えている。
「わたし……」
「だいじょうぶですよ」俺は小さく頷く。「ジーナちゃんもうすうす解ってたんじゃないかな」
俺の心配はそこだったのだ。
アデイールさんがあらわれてから、ジーナちゃんの表情が、ミューくんと居る時みたいに柔らかくなかった。というより寧ろ、チェルノーラ夫人と居る時みたいになっていたから、アデイールさんを苦手に思っているのでは、と心配していた。そういうひとが何回も訪ねてきたら面倒だな、と。
実際酷い裏切り(とも云えないのかな)があったが、ジーナちゃんがそもそもアデイールさんに完全に心をゆるしていたのではないみたいだし、大丈夫だろう。ショックを受けない訳ではないだろうが。
夜、献立は、ローストビーフにした。これを覚えておけば応用がきくし、パーティの時も困らない。ファバーシウスは名家らしいから、うちにひとを招く機会もあるだろう。チェルノーラ夫人が蜂蜜の取引の時同席していたらしいところを見るに、おそらくディファーズ式だとお客さんをもてなす責任者は奥さんなのだ。
そうでなくても、ローストビーフは慣れれば簡単だし、失敗も少ない。ブロック肉さえあれば、お野菜はなんだって、大概おいしい。グレイビーソースも色々と役に立つ。そして、仕込んでおいてオーブンに任せればいいという手軽さである。らくちんで見場もよくておいしいのだ。文句のつけようがない。
オーブンを持つためのお金と、ブロック肉を買うお金については不問。ジーナちゃんはお金に糸目をつけずにお料理をするつもりらしいから、あえて節約はしない。ま、こっちの世界だと、牛ブロック肉なんてたいした値段ではないのだけれど。もとの世界ならひと月分の食費が飛びそうな塊でも、銀貨数枚で買える。
反対に、お塩とかはちみつはべらぼうに高い。どちらも裾野ではとれないからだが、それにしたって高すぎる。ドラッグストアでもっと買っておけばよかったなあはちみつ。
バットをオーブンへ滑りこませる。扉を閉めた。
「あとは、スープと、サラダ、それに甘いもの。ローストビーフはこってりめに味をつけるから、甘いものはくだもの主体がいいね」
「そういうふうに献立を決めるのね」
ジーナちゃんは一生懸命メモをとっている。「お肉はこってりだから、さっぱりしたくだものと一緒に出す、ということ?」
「それもあるけど、お肉には塩分が含まれていて、くだものでそれを和らげる」
お肉にはナトリウムが含まれているから、カリウムも一緒に取ったほうが(理論上は)いい。
「ソースにくだものをつかうのもいいね。単純においしいし、食べ合わせもいい」