異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ラスターラ卿の隣に座っている男性が大笑する。「かわったお嬢ちゃんだなあ、マーゴ。酒なら幾らでもあるだろう。二・三本やったらどうだ」
「ああ……」
「お代なら払います」
俺の言葉はさらなる笑いを誘った。二・三本やったらどうだと云った男性が、ラスターラ卿越しに俺へ手を伸ばしてくる。
頬を撫でられた。「そりゃあいい。マーゴ、今夜はお前がお楽しみだな」
「やめろ」
ラスターラ卿は低い声で男性を制し、俺へ笑みを向ける。「ただで持って帰ってもらってかまいませんよ」
男性が詰まらなそうに舌を打つ。ラスターラ卿は男性のローブをぐいとやって背筋を伸ばさせた。
「ただ……」
「はい」
「今夜の働き次第です、と云えば、解ってもらえますか?」
俺は微笑んで頷いた。ビーフストロガノフの為ならなんのそのだ。
まず、お金を持っていそうな、ついでにちょっと酔っているひとをさがす。見付けたら、一緒に遊ぼうよー、と腕でも掴んで誘う。鼻の下を伸ばして一緒に来てくれるので、お酒を呑ませながらルーレットをする。その繰り返し。
俺自身もだいぶ賭けてすったし、充分お金を落とさせた。筈。
二時間もそうやって、酔いつぶれた男性が奥へ運ばれること数回、俺はラスターラ卿に呼ばれてカウンタへ近付いていく。ラスターラ卿に凭れかかって、あの男性は寝息をたてていた。
「ご活躍ですね」
「どうも……それで、どうですか? 俺の働きは」
「大変ありがたい」
ラスターラ卿はにっこりして、それから表情を曇らせる。
「あなたのように酒の味が解るひとに差し上げるべきなのでしょう。まったく忌々しいことに、昨今の信仰告白はやりの所為で、本国では売り上げが落ちていまして……」
ほう。ディファーズのひとなのか。てことは、貴族の卿じゃなく、枢機卿の卿?
「ついでに、弟はこのように遊びにしか興味がないもので」
ラスターラ卿は自分へ凭れかかっている男性を見る。弟さんだったんだ。「おっと、口が滑りました。酒は用意しましょう。二・三本と云わず、好きなだけ持って帰って下さい」
「あの。ラスターラ卿、少し宜しいですか?」
「なんでしょう……」
「ご在所ではお酒はどれくらい仕込んでおいでで?」
ラスターラ卿は、なぜそのようなことを、なんてことは訊いてこなかった。「年に15000klできればよいほうですね。このところはぶどうが甘くなってしまって、品質を安定させる為にはできの悪いものを廃棄せざるを得ないのです」
15000kl! ひええー。