異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「あのひと、面白いだろ」
吃驚した。ティーズくんが後ろに居たのだ。「こんばんは」
「こんばんは。マオ、美人だからさ、スッゲエ仕事してくれそうって期待されてるんだぜ」
しごと?
首をかしげる。ティーズくんは俺に、お酒のはいったゴブレットをくれた。お礼を云ってうけとる。
「賭場をひらいたら、場所を提供した人間にも何割か金がはいるんだよ。俺達はお大尽にへばりついて、もっとかっこいいところ見せて、って、どんどん賭けさせる係だからな。あのひとどっかの貴族らしいけど、賭場をひらく度俺達にあの態度だ」
ふうん。まあ、胴元に雇われてきてるティーズくん達は、賭けをしたりお酒を呑んだりはするけど、お客じゃなくてキャストだもんね。運営側から大切にされる訳だ。
仕組みがしっかりしているのだなあと思いながらひとくちお酒を呑んで、ひっくり返りそうになった。
「マオ?」目を瞠って停止している俺に、ティーズくんが心配そうに云う。「どうした?」
「こ。これめちゃくちゃおいしい」
呷る。まじかよ、ちゃんとしたワインじゃん。超絶おいしい。
ティーズくんはほっと息を吐いて、それから苦笑する。
「マオ、お酒好きなんだったな」
「これどこのお酒なんだろ」
ああ、もうなくなっちゃった。お酒はそこまで好きではないが、おいしいものだったら話は別だ。お料理やお菓子にもつかえるし。
「ラスターラ卿の所領の産だってよ」
「うっそ。どこのひとなの?」
ティーズくんは首をすくめる。「これだから酒呑みは」
挨拶まわりを終えたらしく、カウンタで同年輩の男性達とお酒をちびりちびりやっているラスターラ卿へ、俺は勇んで近付いていった。
礼儀とかなんとか、知るか。おいしいワインがあったら牛肉のワイン煮込みとか、ビーフストロガノフとか、ボロネーゼとかワインゼリーとかつくれるんだぞ。
「ラスターラ卿」
ラスターラ卿が振り向いて、笑顔になった。俺も笑顔になる。ラスターラ卿の友人達(仮)は、俺を見てにやにや。「お嬢さん、なにか不便でも……?」
「いいえ。あの、伺いたいことがございまして」
「なんでしょう」
ラスターラ卿の表情が困惑げになる。俺は嘘ではない、ほんものの笑顔で云う。
「お酒のことです。とってもおいしくって! 持って帰りたいのです。駄目でしょうか?」
ラスターラ卿がぽかんとした。