異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
旨いっす、とサッディレくんは嬉しそうに云ってくれて、俺も嬉しかった。
好評だったので、お昼はピザを出すと決める。ナポリふうと、牛肉かぼちゃ青唐辛子。それにとりストックのキャベツスープ、油分とお砂糖少なめのクッキーにたっぷりジャムを塗ったもの。あと、廟でもらったお芋は、うすーく切って揚げ、お塩を軽くまぶした。ぽてとちっぷすだ。俺は昔から市販のものより自作派である。色々試してみたけれど、好みの味がないのだ。
ピザは好評だったが、いかんせんお客さんは少ない。それはどうしようもないことだと思っていたのだが、お昼のまかないを食べている俺に、ベッツィさんが提案してきた。
「お店の宣伝しませんか?」
プロモーションかあ。お金がかかりそうだなあ。
返事をしない俺と違い、セロベルさんとアーレンセさんはこっくり頷く。「いいですね」
「考えてなかったぜ。でも、いいなそれ」
「マオさんは、反対でしょうか?」
「え」ピザを飲み込む。「いやあ。……費用対効果に拠りますけど」
セロベルさんがくすくすした。「金なんてかかるかよ。問題は、お眼鏡にかなうかだぜ」
きょとん顔の俺に、その場に居たひと達が説明してくれた。
裾野では、お店の宣伝というのは、ちらしをまくとかひとを雇って宣伝してもらうとかではない。勿論テレビもないからテレビCMを打ったりはしないし、雑誌も一般的ではないので雑誌広告というのもないのだろう。
ではどうやるか、というと、番付みたいなのがあるのだ。
まちの要所々々の壁、駅(乗り合い馬車の、である)、各協会、図書館などに掲示されるもので、上質な羊皮紙に特製のインクで書かれる。「食事」「宿泊」「土産もの」「服飾」「観光」のおすすめスポットをまとめたものだ。それぞれのジャンルで大体30くらい選出される。編集しているのはそのまちの「検査官」「目利き」「食通」「美術家」などの有志。
頼んでのせてもらえるものではないが、のせてもいいですよとこちらから伝えないと一生のらない。四月の雨亭はかつて、「食事」ジャンルでの常連だったが、休業した時に外れ、その後名義がグロッシェさんへ、更にセロベルさんへと移動した為に、おそらく選考リストからも外れている。
そういえば、たまに紙が貼り付けてある壁があったが、あれってそういうものだったのか。協会・図書館・駅は近付いてないから、じっくり眺めたことはない。
「じゃ、その……」
「観光案内」
「……それをつくってるひと達に、四月の雨亭をのせてもいいですよ、っていったら、のせてくれるかもしれにゃいんですね」
噛んでない。噛んでないよ。
誰にも触れられなかったから大丈夫だ。ベッツィさんは鼻息が荒い。「かもしれないじゃないです。マオさんのお料理はおいしいし、お風呂は気持ちいいし、お部屋は常に清潔だし、お庭も綺麗なんですよ。確実にのります」
「わたしもそう思います」
アーレンセさんが同意した。サッディレくんも頷いている。「あれって、意外と観光客だけじゃなく地元の人間も見るんだよな。のったらお客さんであふれるっすよ」