異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
リッターくんは、娼妓にあうためにではなく、賭場に通う部下を捕まえるために毎晩まちをうろついていたこと。
俺は娼妓ではなく、偶然リッターくんと知り合って、リッターくんの事情を知り、協力したこと。
なのに、また別の部下が賭場に通っていると解り、リッターくんは再び夜のまちをうろつかざるをえなかったこと。
そんなような説明をすると、ユラちゃんはぽかんと大口を開けた。
ぱっとリッターくんを見る。「リッター、あんた、何故わたしに報告しなかったの」
「……若さまには報告した。動揺して試験に響いてはいけないから、ユラには黙っているようにと。テンリェスのことは、確実に証拠をつかむまで、誰にも云わないつもりだった。間違いだった場合、当人の経歴に傷がついてしまうからな」
「あんた……」
ユラちゃんは暫し絶句し、真っ白になった顔で俺へ頭を下げた。「ごめんなさい。失礼なことを云ったし、態度も悪かったわ」
「ああ、いやあ、俺もややこしいことしちゃったし、ごめん」
「由々しきことだわ……わたしの配下からふたりも賭場通いが出るなんて。お父さまの顔に泥を塗ってしまう……」
ユラちゃんは相当ショックを受けているようだ。誰だか知らないが、リッターくんが報告をあげた「若さま」の判断は正しかった。
暖炉の薪がからっと崩れた。ユラちゃんはまだ茫然としている。リッターくんはうっすら頬が赤くなっていて、目がとろんとしていた。熱が上がってきたらしい。
熱が出た時は、あれだよね?チキンスープ。
お料理できるところある?と訊くと、ふたりとも廊下のほうを見て、リッターくんが少し掠れた声で云った。「階段を下りたら、左に」
「かりていい?」
「かまわんが……」
「ちょっと、あんた、なにする気?」
「おやしょくつくる」
廊下へ出た。階段……あれか。内装はお上品で高級そうだけれど、手入れは行き届いていないな。旅行から帰ったばかり、みたいな感じ。
下の階へ着く。灯は幾つかともっているが、くらい。しかし、厨房はすぐ近くで、迷う心配はなかった。
「ありゃ」
厨房も暫くつかわれた形跡がない。調理台にうっすら埃が溜まっている。みずがめからはいやな匂いがしていた。
ま、いっか。つかうところだけお掃除しよ。
袖をまくって、調理台を拭き清めた。これでよし。「ねえ」
かまどに火をおこしながら振り返る。ユラちゃんが廊下へのアーチの下に居た。壁へ寄りかかっている。痩せた体に男ものの服装だから、小柄な男性と思われたのだろう。
「なにしてるのよ」
「だから、おやしょくつくってるんだよ」
「はあ?」
埃をかぶったお鍋を洗う元気はないので、収納空間から手持ちのものをとりだした。ユラちゃんが息をのむ。
お鍋をかまどにかけて、とりストックを注ぎ込んだ。お塩と粗びきこしょうを適当にいれておく。春雨があったらもっとおいしいんだけどね。