異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
お鍋には蓋をして、まないたの小さいの(市場で見付けて可愛かったから買っておいた)を調理台へ置き、その上に鶏肉をセット。ナジさんからもらった包丁で、まず粗みじんにする。その後は気長にとんとん叩いて、粗めのミンチになったら、これまた持っていたボウルへいれる。
すりおろした生姜・たまご・ねぎのみじん切り・お豆腐・お塩・お醤油・片栗粉・ちょっぴりのお砂糖を加えたら、よーくまぜる。お豆腐は潰しながら。
振り返ると、まだユラちゃんが居た。俺はにこっとする。「ユラちゃん、お鍋の蓋あけて」
「ユラちゃんですって?……解ったわよ。それくらいやるわ」
「ありがと。火傷しないように、乾いた布越しに掴んでね」
ユラちゃんはとことこやってきて、ローブの袖越しに蓋を掴んで開けてくれた。俺はもう一度お礼を云って、ボウルの中身を一口大に丸め、ぐつぐつたぎったスープのなかへいれる。
「なによこれ。……いい香り」
「でしょ。風邪ひいた時に、母親がいつもつくってくれてたんだ」
母はどちらかというとお料理に興味がないタイプだが、得意なものは幾つかあった。子ども達が風邪をひくとかならずつくってくれていたのが、チキンスープだ。というか、とり団子のスープ、かな。
ユラちゃんは眉根を寄せて、お鍋を覗きこんでいる。「……そうね。あんたにだって母親は居るのよね」
「よし、また蓋してもらえる?ありがと……」
さあ、まないたとボウル、包丁もよーく洗わなくちゃ。食中毒がこわいからな。さいわい、せっけんは持っている。まず手を念いりに洗い、包丁、ボウル、まないたと、ひとつひとつしっかり洗い、よく拭いてしまっていった。途中、お鍋からいい香りがしてきたので、火を消してとユラちゃんに頼むと、水魔法一発だった。すご。
しかし、だいぶお水をつかってしまったな。サッディレくんに頼んでお水をもらおう。
最後にもう一度手をよく洗い、拭いた。「ありがとう。助かったよ」
「お礼を云われても気持ち悪いからやめて」
ぷいとそっぽを向かれた。ありゃ。
俺は苦笑いで、お鍋を収納した。「じゃ、上で食べようか」
「な、なに勝手にわたしも食べるって決めてるのよっ」
「れ?たべないの?」
「たっ……食べるけど」
うーん、難儀な子だなあ。
上の階へ戻る。リッターくんはベッドに横になって、息苦しそうだった。暖炉の上にお鍋を置き、深皿にスープをつぐ。最後に軽くレモンをしぼる。
「起きられる?無理そうだったら、こっち向きで体を横にして。あーんしてあげるから」
ベッドの近くでそう云うと、リッターくんは苦しそうな呼吸のまま上体を起こした。まけずぎらいなのかな。