異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
お皿とお匙を渡した。それから、ベッドのあしもとにあった毛皮のローブ(俺の)を、リッターくんの肩にかける。「よく噛んでね。無理ならお匙で潰して」
リッターくんは食前の祈りを捧げ、スープを一口すすった。
俺はそわそわしているユラちゃんにもスープをあげ、自分の分も用意する。とり団子、ふわふわで生姜が効いてて旨い。レモンもいい仕事。
リッターくんが溜め息を吐いた。しかしなにも云わない。俺はとり団子を飲みこむ。
「これは風邪のお薬だから、食べてもいいんだよ」
リッターくんは無言だったが、深く頷いた。
二杯三杯と食べた。旨い。風邪じゃなくてもこれ食べたいよね。ユラちゃんがお皿をからにして、またそわそわしているので、おかわりいるひと手をあげて、と云ったらふたりとも手をあげた。リッターくんはまだ食べ終わってないのに。
結局、ふたりは二杯づつ食べた。ユラちゃんはローテーブルに空のお皿とお匙を置き、長々と息を吐く。
「おいしかった?」
「……悪くはなかったわ」
「そ。よかった。リッターくんは?」
「旨かった」
リッターくんが即答したので、ユラちゃんが目を丸くする。
リッターくんは寒そうに体を震わせ、二・三回咳き込む。痰が絡んだ音がした。「すまん。うつるかもしれない」
「うつったらその時だよ。はい、横になって、大人しくしてて」
食器を回収した。からになったお鍋もだ。リッターくんは眠そうに瞬く。
お水のはいったゴブレットを渡した。「これ飲んでおいて」
「……ありがとう」
歯を磨けなくても、お水でだいぶ違うからな。
リッターくんは素直にお水を飲む。ユラちゃんが呻くように云った。
「リッター、具合が悪いのなら、癒し手に治してもらいなさいよ」
「……これを治せる者は今居ないと云われた」
「まったくもう!まともな癒し手はいつからいなくなったのかしら?」
ユラちゃんは天井を仰ぐ。埃が落ちてきたのか、手で顔の前を払うような仕種をした。
「それにしたって、どうしてこんなにひとが居ないわけ?おかしいじゃないの。ここはロヴィオダーリ邸じゃなかったの?」
「……帰らせた」
「ハア?」
「家政系職業の者ばかりだったから、帰らせた。危険があるから」
……ああ、尾行されてた、あれ?
ユラちゃんがはやくちでなにか云う。ーー家の人間か、それともーー家か、とかなんとか。リッターくんが多分と返した。政敵の貴族が居るのだろう。
ユラちゃんはふんと鼻を鳴らす。「慥かにあんたひとりのほうが安全でしょうね。でも、食事はどうしてるのよ」
「買って食べている」
「それならうちに泊まりなさい。馬小屋なら幾らでもあいてるわよ」
いらいらした調子で云い、ユラちゃんはもう一度鼻を鳴らす。
「にしても、狙ってくるほうもばかねえ!万能で不倒のあんたを、なんとかできるとでも思ってるのかしら?」