異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
マイファレット嬢は、間近で見ると結構な美少女だった。とはいえ、顔立ちそのものはジーナちゃんほどではない。
しかし、髪型、服装、表情で美人度があがっていた。
アップスタイルが似合わない&前髪をつくると可愛くないという自覚はあるようで、耳の高さにゆるい編み込みをつくり、前髪をまんなか辺りで分けて横に流している。
表情はちょっと歯の見える微笑。
クリーム色のドレスは胸下切り返しで、スカート部分がふんわりとふくらんでいる。鎖骨がちょっと見えるくらいの、深めの襟ぐり。袖は七分で、ひろがってふわふわしている。その上から、マラカイト色のショールを羽織っていた。
自分の見た目について凄く研究しているのがありありと解った。ミューくんを射止めるためだろう。
顔立ちではジーナちゃんに相当劣るけれど、ジーナちゃんは基本無表情だからなあ。
マイファレット嬢はにこっとした。笑み崩れないように気を遣っているようで、口許に余計な力がはいっている。多分、意識せずに笑うと前歯が出過ぎるのだろう。
「このお菓子はおいしいわね。持って帰りたいのだけれど」
「はい、銀貨1枚とエスター20個でお持ち帰り戴けます」
「そうなのね。アエッラ、こんなお店は来たことがないものだから、よく解らないの。こんなにせまいテーブルも、粗末な椅子も、初めてだわ」
うふふ、と口許を片手で隠して笑っている。ジーナちゃんに聴かせたら大変なことになるな。
俺は別に腹も立たない。テーブルや椅子を食べるんじゃないし、粗末だろうと高級だろうと飲食店の調度に求められることはただひとつ。清潔さだ。
その点、四月の雨亭は、毎日グロッシェさんが隅の隅まで綺麗にしてくれている。問題ない。それに、テーブルがひろくても、椅子がいいものでも、食べられる量には限度というものがあるからな。人間頑張っても、一回の食事ではご飯一升くらいが関の山だ。
「お嬢さまの分を取り置いておきますので」俺はにこにこした。「お帰りになる前にカウンタへいらして下さい」
「うふふ、あなたはこんなところにいるのが信じられないくらい、綺麗な言葉遣いね。さっきまで居た給仕は、酷いロアなまりだったわ」
サッディレくんのことかな?
言語スキルのおかげで、なまりとかなんとかはよく解らん。でも、俺はきちんとした共通語を喋っているらしいので、マイファレット嬢が誉めたのはそれだろう。とりあえず、ありがとうございます、と頭を下げておいた。マイファレット嬢は満足げ。
俺はカウンタにいるセロベルさんに云って、マイファレット嬢用にお菓子を何包みか取り置いてもらう。ユラちゃんみたく大量に買わないとも限らないから。