異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
厨房へ戻り、お膳を仕上げていると、サッディレくん達が戻った。すぐに給仕に走ってくれる。サッディレくんはまだご飯中なので、厨房と食堂を行き来して、とりの照り焼きをもりもり食べていた。
マイファレット嬢はまもなく帰り、俺はほっと息を吐く。ジーナちゃんと対面していたら修羅場だったかもしれない。
マイファレット嬢は、マドレーヌの包みをみっつ、買って帰った。セロベルさんによると、家族へのお土産らしい。
帳簿付けを済ませ、お風呂をもらって、賭場へ向かった。空は晴れていて、新月が見える。吐く息が白い。湯冷めしちゃうかも。
今日もあのげんなりするやりとりかあー、と思って溜め息を吐くと、すっと後ろから腰の辺りに手をまわされた。「やあ、マオ」
「……リューさん」
仰ぐと、リューはにこっとする。お仕事お疲れさまでーす。
リューは、奇遇だねとか君と会えて嬉しいよとか、歯の浮くような科白を臆面もなく云ってきた。面の皮が厚いのか、プロ意識なのか。
今夜の開催場所はとある廟の地下。リエナさんから教えてもらった知識に拠れば、北部系の廟だ。
リューは、こっちから這入ろう、と、洞窟みたいなところへ俺をつれていく。こいつに騙されてる感じをやらなくちゃいけないわけで、ついていくしかない。いざとなったら冒瀆魔法でぼっこぼこにしてやろ。
いざにはならず、洞窟的なところの奥にある扉を潜ると、高レート部屋へ直通だった。昨日と同じくこちらも、地味ーな感じだけど実はお金がかかっている、高級感、洗練、みたいな言葉が似合いそうな部屋だった。
リューが俺の耳許へささやいた。はい鳥肌。「僕はこっちの常連でね。記帳なしでもはいれるんだ」
「えー、スゴーイ」
目をきらきらさせてみせた。昔取った杵柄じゃい。舐めんなよ。「リューさんって、じゃ、お金持ちなの?」
「ふふ、まあ、こっちで遊べるくらいにはね」
成程そういう設定か。生き証人さん一号に、金持ち引っかけに来たんだよぐへへみたいなこと云っておいたもんな。金持ちのイケメン(笑)との出会いを演出し、どんどん勝たせ、判断力を失わせていく作戦か。悪いが俺にイケメンは通じないぞ。情報収集がなってないな。鳥さんだったら我を忘れたかもね!
今日も、俺と同じテーブルには、エルン、リュー、アランがついた。俺は女の子扱いなので、リューは椅子をひいてくれたりウエイトレスさんに飲みものをもってこさせたり、甲斐甲斐しく俺に尽くしてくれる。にこにこしていちいち喜ばないといけないのがきついけれど、自業自得なのだ。それに、騙されてくれてるんだなあ、このひと達まぬけだなあ、と考えれば心穏やかでいられる。そろそろ大詰めだし。