異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
マウントの取り合いが続き、三十分もせずにテーブルを離れてカウンタへ戻る。職業や仕事について躱し続けたツィークくんは、いちごミルクをあおって低声で抗議してきた。「なんなんですかあ、あれ」
「あはは。すみません。予想してなかった」
「……マオさん、人気なんですね」
じとっと睨まれる。前髪が被さっていても解るくらいの視線だ。
目を逸らした。
「人気というか、あれですよ。食べたいけど食べられない筈だったものが、突然現れた謎の人物に食べられちゃった感じ?」
「はあ?」
「俺、結構な数のお誘いを全部断ったから。だからほら、全部断るんだと思ってたら、……ってことじゃないかな。こう、手にはいらないと思って諦めてたお菓子を、簡単に手にいれて食べてるひとが居たら、悔しいでしょ」
ツィークくんはいちごをもぐもぐする。
「食べものでしか例えられないんですか?」
「う」
「結構な数のお誘いを受けてる段階で、人気でしょ」
「そ。それはあれ。ものめずらしさ。絶対そう」
いちごを食べる。甘くて香りがよくておいしい。明らかに時季外れだけど(今十一月の初めだし)、もしかしたら還元いちご?
ツィークくんが小さく溜め息を吐いた。「ばかみたい」
「え?」
「……いいえ。あなたは得体が知れないと思っていたけれど、俺とは違う考えのひとなんだと理解できました。ライティエさん寄りですねえ」
「……ありがとう?」
「撤回します。あなたはおかしい」
断言された。てへ。
カウンタで休憩(と糖分)を取り、別のテーブルで賭けをする。俺ではなくツィークくんがだ。俺はそれにひっついて、スゴーイカッコイーイと目をきらきらさせる役まわり。
あのマオを落とした、というのは大変な箔らしく、ツィークくんは注目され続けた。俺は情報収集のためにおにいさんやおじさまにくっついていたことはあったが、こんなに長時間一緒には居ない。
ってことは、怪我の功名だな。俺はお金大好きお金持ち大好きを公言しているから、ツィークくんは、べらべら喋らないだけでもの凄いお金持ち、と思ってもらえてそう。よしよし。
一緒にお手洗いへ行って、俺だけ先に戻る。ツィークくんは、ちょっと精神統一します、と云っていた。「マオ」
「わ。……どうしたの?」
グエンくんだ。ティーズくんも一緒。
グエンくんは心配そうだ。ティーズくんは、好奇心と期待のまざった表情。
「マオ、大丈夫?」
「なあマオ、あいつに紹介してくれよ」
「ティーズ!」
グエンくんがたしなめるが、ティーズくんはくすくすする。「なんだよグエン。気になるじゃん。マオが相手してやったんだぞ。凄い金持ちだよ絶対」