異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ツィークくんは控えめに俺の腰に腕をまわし、テーブルへ近付く。低声で言葉を交わした。「ツィークくんって、どういう女性が好みなの」
「今話すことですかあそれ……あのひとぉ、マオさんのこと、見てますよ?」
ツィークくんが顎で示したほうを見る。お、リューだ。
俺はツィークくんへ目を戻し、にっこりして、甘ーい声を出した。「でっしゅさん、もう一度奥に行かない?」
「あー、えっと……」
「マオ」
リューが近付いてきた。くったぞ!
ツィークくんはリューを、前髪をすかして観察している。俺はツィークくんにべったりひっついて、リューへ顔を向けた。「あ、リューさんだ。こんばんは」
「……彼は?」
「えー?」
俺はツィークくんへ流し目をくれる。「えへ。デッシュさん。意気投合しちゃって」
「そう……初めまして、デッシュ。僕はリューイックといいます。リューと」
「ああ、初めまして……」
「……マオ、今夜はあちらへは行かないのかな」
「うーん、デッシュさん這入れないし……今日はいいかな」
どっちに転ぶか。ウロアが「質問」して、ツィークくんの正体をさぐる、と云う可能性はあるだろうけれど、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。俺が関わらなくてもその可能性はあるしな。
リューは微笑んだが、目は笑っていなかった。「デッシュ、随分羽振りがいいね。もっと大きな勝負をしないかい?」
おっと、結構さくさくすすみそうだ。
ツィークくんはしかし、怪訝そうにした。「なんの話?」
「あっちの扉の向こう」リューは肩越しにそちらを示す。「もうひとつ部屋があるんだ」
「ああ……成程。あんまり興味はないかな」
えー断るの?と思ったら、ツィークくんは俺の脇腹をつねった。痛い。
ああ、ひきとめたらいいのな、はいよ。
「ええー、行けるんなら行こうよ。あっちはもっと楽しいよ」
ツィークくんへ低声で抗議してみせた。リューがにこにこしている。釣れたなって顔。お前が釣られてるんだっての。
ツィークくんが息を吐いた。「マオが云うなら、いってもいいが」
リューが、案内するよ、と歩き出した。
地味だけど金のかかっている部屋に這入る。ツィークくんには事前にどんなところか説明していたので、平然としていた。潜入調査を任されるだけあって、冷静な子である。
エルンが歩いてきた。「リューイック、困りますよ、勝手にひとを連れて来て」
「大丈夫だよエルン、胴元の許可はとってあるから」
「……そういうことなら」
エルンがひきさがり、俺達へ向けて満面の笑みを浮かべる。「いらっしゃいませ。マオさん、そちらのかたを紹介して戴けますか?」