異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
栗の甘露煮はつくり置いているし、ご飯はつやつやに炊き上がった。これでよし。お膳を整えるお手伝いをしてくれているサッディレくんは、凄く不満げ。「なに、あいつ……マオになれなれしいよ、幾ら祇畏士さまだからって」
「ほーじくんはああいう子だから」
「……そっちは、まだいいっす。でもあの、シアイル人。あいつ、はらたつ」
ユラちゃんのことかな?サッディレくんと相性悪いよね。
ほーじくんへの暴言はリッターくんが訂正して謝ってたし、半分は褒め言葉(名門ティヴァイン家の優秀な四男、だから、この部分は誉めてる)だから、そこまで腹を立てなくてもいいと思う。ユラちゃんは素直じゃない子だから、誤解されるなあ。
お茶を配っていたアーレンセさんが戻った。「いい香りですね」
「ふたりの分もちゃんとありますよ」
「わあ、嬉しい」
アーレンセさんが無邪気に喜ぶのを見て、サッディレくんの口許がほころんだ。
ワゴンを押していく。五人は丸テーブルについて、沈黙していた。
ジーナちゃんはミューくんが心配らしく、お茶をアーレンセさんに任せたし、ミューくんのすぐ隣に居る。椅子がくっついていた。
ジーナちゃんからかなり離れて、リッターくん。そこから順当な離れかたで、ユラちゃん。間にひとつ椅子があって、ほーじくん。ほーじくんから本来の椅子の位置より離れてミューくん。
俺はトレイを配る。ユラちゃんが鼻を鳴らした。「あらあら、見せつけてくれるわねエンバーダート嬢。許嫁さんに夢中で試験が疎かになっているのじゃなくて?来年はあなたに会えそうもないわね。淋しいわ」
悪役っぽくおほほと笑うユラちゃんに、ジーナちゃんは哀しげな顔をつくって憐れむような声を出す。
「ええそうね、とっても淋しい。あなた、試験に通る自信がないのね」
「あんたが通りそうもないって云ってんのよッ」
「他人の心配よりご自分の心配をしたら?魔術者のレフオーブル嬢が落ちたりしたら大変な不名誉よ」
「あの」ミューくんがジーナちゃんの手を掴んだ。「あまり彼女に失礼なことを云わないでもらえるかなレフオーブル嬢……ジーナも、云いすぎはよくないよ」
声は震えているが、発音ははっきりしていた。ユラちゃんがせせら笑う。
「これだからディファーズの女は嫌いだわ。男に庇ってもらってしおらしいこと。土地や商会の管理をひとりじゃできないって知ってはいたけど、議論も男に肩代わりさせるのね。あんたに万雷をつかっても許嫁さんが庇ってくれるんでしょ?」
「ユラ」リッターくんが云った。「口を慎んだほうがいい」
ユラちゃんは思いっきり鼻に皺を寄せた。