異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
汚れた食器は、サッディレくん達と洗った。ふたりともすき焼きをおいしいと誉めてくれる。かなり甘党のサッディレくんには特に受けた。
サッディレくんがたらいにお水を張って、アーレンセさんがそれをあたためてお湯にする。人間給湯器。羨ましい。
食器を綺麗にして布巾で拭い、戸棚にしまう。手がかさつくので、バームを三人で塗った。ぺちゃくちゃお喋りしながらだ。俺はひとりっきりでもぺらぺら喋ってしまうくらいにお喋りは好きなので、楽しい。転移してくる直前くらいは、ひとと接する機会があんまりにもなくて、部屋のなかでひとりごとをずーっと云っていたこともある。完全にアブナイひとだ。
お昼の時間は来たものの、閑古鳥が鳴いている。俺達三人はお喋りしながらクッキーやビスケットを焼いた。つまみぐいし放題なので、10枚焼いても9枚しか残らない。お、俺だけじゃないぞ!サッディレくんも食べてる!
グロッシェさんが戻ってきて、天板を洗ってくれる。「ベッツィさん、大丈夫そうですか?」
「はい。わたしがセロベルを産んだときの話をしたりして……落ち着いて、眠っています」
グロッシェさんは天板を拭いて、アーレンセさんへ渡す。アーレンセさんは天板に生地を落とす。
「魔物の死骸、はやくひきとりに来てくれないかしら……」
「ひきとり?」
「ああ、還元過多で起こった襲撃ですから、魔物の死骸はすぐには還元できないんです。暫くはくず捨て場に……警邏隊が持って行ってくれる筈なんですが」
へえー。でも、表の通りはもう綺麗になってたけど。
どうやら、魔物の種類によって扱いが異なるみたいだ。食べられる・素材として利用できる魔物だと、すぐに回収して、捌いてしまうみたい。
リオちゃんが、表の牛さん、と云っていたから、表の通りで暴れたのは牛なんだろう。ってことは食べられる。今頃綺麗に捌かれているのではなかろうか。なんとも合理的。ついさっきひとを突き殺そうとした(そして、もしかしてそれに成功した)牛でも、食料として扱うのだから。とはいえ、物質的に厳しい世界だから、仕方のないことではあるのだろう。
ひまにあかしてお菓子を量産し、単純作業で眠気が戻ってきたので、俺は三人に断って部屋へ行った。今度こそ仮眠をとる。
ベッドに横たわってしまうと、目が冴えてきた。色々なことが起こりすぎてる。還元過多による魔物の襲撃、リッターくんの暴走、ユラちゃんの警告、四月の雨亭をさぐるみたいな、角のひとの目付き。卿、と呼ばれていたから、それなりの地位のひとだろう。
「……ほーじくん、次はいつ会えるのかな」
天井を見詰めていると、次第にそれがまわりはじめた。目蓋を閉じると、受験生達の顔が浮かんでは消える。そのうちに眠っていた。