異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
だから、セロベルさんは今夜はそちらへ行くそう。警邏隊ではない傭兵にも招集がかかっていて、サッディレくん達もどこかへは振り分けられ、なにがしかの仕事をするらしい。巡回なのか、魔物の還元に立ち会ってそのまま見張るのか、は解らないけれど。
「マオ」
セロベルさんにローブを引っ張られた。腰をかがめる。「はい」
「今夜はここから一歩も出るなよ」
低声で釘を刺された。俺は首をすくめ、はい、と云う。多分、この騒ぎじゃあ賭場も開店休業だろう。行かなくてもいい。
警邏隊は、ご飯を食べて、すぐに居なくなった。
俺達もご飯を食べる。後片付けを手伝ってくれたサッディレくん達は、そのあとそれぞれ本気装備らしい格好になって、出発する。アーレンセさんはラピスラズリみたいな、もの凄く綺麗な色合いの肩掛けを羽織っていた。竜革らしく、サッディレくんは自分のことのように自慢していた。
俺はジーナちゃんを部屋に下がらせて、帳簿をつけ、お風呂にはいって寝た。
はやくに目が覚めた。サローちゃんに頼まれた宴席の準備をしなくては。
ジーナちゃんと連れ立っていった市場は、閑散としていた。それでも山羊肉は沢山手にはいったし、ほかの材料も売っている。
コンフリーの束を収納して支払いを済ませ、俺はなんとなく訊いた。「昨日、廟はどうだった?」
「相変わらず息苦しくて苦手なところだわ」ジーナちゃんは意外にもそう云う。が、すぐに付け足した。「今の、黙っていて頂戴」
俺は苦笑いで頷く。政治的なあれやこれや、だな。諒解。
どうやらリッターくんは本気でミューくんと仲好くなりたいらしく、お祈りの時間が終わってからも帰ろうとしなかったらしい。で、結局ミューくんはリッターくんと、ちょっと喋った。
「あの時のミューの顔ときたら、魔物に囲まれでもしたみたいだったわ」
リッターくんは相当強烈に迫ったみたいだな。ほんとにもう、誤解されやすくていらいらしてきた。色んなプロセスをすっ飛ばすし。突然抱き付いてきたりね。
ジーナちゃんはリッターくんを妨害したり、ミューくんをフォローしてりして、最終的にリッターくんを追い返すのに成功した。でも、また来る、といっていたらしいので、リッターくんのことだから言葉通りミューくんを訪ねるつもりだろう。ジーナちゃんにもそれは解るのか、不機嫌そうだった。
「リッターくん、そんなに苦手?」
「……ミューは優しいの。あんなに粗暴で、冷たいひと、友達にしないで欲しいわ」
そのくちぶりは、まるで、家族を心配するみたいだ。微笑ましい。