異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
メイラさん達が起きてきて、お菓子を沢山買って出て行った。今夜も警戒態勢は続くみたい。
夕食時には多少お客さんが戻ってきた。といっても、近所のひと達がほとんどだ。泊まりのお客さんもひとくみ。
サッディレくん達がお風呂を沸かしに行って、ツァリアスさんと俺で給仕をしていると、どやどやと大人数が這入ってきた。幾つかのテーブルに分かれて座っている。そのなかに、懐かしい顔を見付けた。イルクさん達だ。ってことは、傭兵達か。
「いらっしゃいませ」
お茶を配る。短髪・ピアスなしの俺、髪がかなり短いツァリアスさんに驚いた顔をするひとは居るが、からかわれたりはしない。傭兵はそういう行動が査定に響くからな。
「ここは、銀貨1枚で飯がくえるって聴いたけど」
「はい」
「じゃ、全員それで」
承りました、と軽く頭を下げる。イルクさん達は俺に気付いたが、話しかけてきたりはしない。ただ、会釈はしてきたので、会釈を返した。
厨房へ戻り、お膳を仕上げる。今夜のメニューは、キャベツたっぷり回鍋肉、きのこと人参のミルクスープ、エディブルフラワーのサラダと、飴がけのバナナに、発酵させてないパン。
ワゴンを押していってトレイを配ると、傭兵達は口々にお礼を云って、半数はお祈りをはじめた。傭兵は査定があるからか、行儀がいいひとがほとんどだ。ついでにこっちの世界だと、お酒がなくて大騒ぎするのんだくれも居ないし、気が楽。
「お茶とパンはおかわり自由ですので、いつでもお申し付けください」
食事をはじめた傭兵達にそう云って、さがった。お客さんは少ないので、ツァリアスさんひとりでも給仕は間に合う。まかないを食べておかないと、シアイル貴族が来たらツァリアスさんはひっこむしかなくなるからな。
まかないを口に詰め込んでいると、サッディレくん達が戻ってきて、用意しておいたお弁当を手に出発した。今日もレントの巡回に組み込まれているそうだ。
ツァリアスさんとバトンタッチした。ジーナちゃんは、明日は試験なので、もう寝んでねと部屋にさがらせた。表情には出さないけれど、緊張しているみたいだった。大丈夫かなあ?
カウンタでぼーっとしていると、傭兵のテーブルから声がかかった。「給仕さん、パンの追加もらえるか」
「はあい」
いかんいかん、眠そうな声になってしまった。俺は厨房でかごにパンを盛り付け、収納していたティーポットと一緒にワゴンへ積んで、笑顔で運んでいく。
「ありがとよ」
「いえ。お茶は足りますか?」
「もらおう」
数人、マグを示したので、お茶を注いだ。イルクさん達の居るテーブルだ。
お茶のおかわりを淹れると、イルクさんはこちらを見てにこっとした。「久し振り、マオさん」
「どうも」
笑みを返す。