異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ダストくんとハーバラムさんは無事に村に帰ったのか、気になるところだけれど、イルクさん達にはあまりいいイメージがない。なので、挨拶だけにとどめた。
しかし、あちらさんから話を振ってきた。「荒れ地のほうがレントより平和だよ。な、ステュー」
「ああ。お茶もらえるか」
ステューフさんのマグにお茶を注ぐ。俺は愛想笑いを浮かべた。ここで黙っているのもおかしいか。
「ダストくんとハーバラムさん、無事に戻れましたか」
「勿論だよ」
イルクさんはきつくみつあみにした髪の毛を、ぴんと肩から後ろへ払いのけた。首を少しだけ傾ける仕種に、なんとなく見覚えがあった。なんだっけ?
「三日滞在して、付近で魔物を狩って……」
「それからは、荒れ地とこっちとの往復よね」エイマベルさんが飴がけのバナナをぱりぱり食べる。「ん、おいしい。あなた、いいとこに雇ってもらえたわねえ」
それには同意しかない。深めに頷いておく。
イルクさん達は、ダストくんを村に送り届け、ハーバラムさんの村に行って報酬をうけとった。それから三日、そこに滞在して、村の近くで魔物を狩ったそう。で、荒れ地近くの村から西へ行くひと達を護衛したり、反対に、こっちから荒れ地のほうへ行くひとを護衛したりしていた。別のパーティと合同の仕事もあったらしく。
「でも、なんだか物騒じゃない?このところ」
「慥かに、商隊が襲われることが増えたよな」
「昔は、街道を通る限りは、魔物に襲われないって云われてたんでしょ?」
「今は、街道を狙って来てるみたいな魔物もいるもんなあ……」
隣のテーブルから声をかけられたので、ありがたくそちらへ向かう。イルクさん達は角突き合わせて、魔物の行動パターンについて話していた。
焼き菓子の詰め合わせを買って、お客さんが帰っていく。傭兵達も、夜巡回や、レントのまわりの魔物討伐に向かうらしく、焼き菓子の詰め合わせを沢山買っていくひとが多かった。イルクさん達にはひとつつみおまけ。悪い癖だと自覚してはいるのだが、ちょっと苦手なひとに程親切にしてしまう。ややこしいいいがかりをつけられたくないからかな。自分でもよく解らん。嫌いなひとには関わりたくないけどね。
ツァリアスさんと、汚れた食器を片付け、グロッシェさんに渡す。すぐさま洗われた食器を、ふたりで戸棚へ戻した。グロッシェさんは食堂をお掃除している。「ツァリアスさん、手際いいですよね」
「ああ、ひとり暮らしが長かったので……」
ツァリアスさんは含羞んで目を逸らす。「……あの」
「はい」
「今度から、調理の手伝い、もっとします。給仕ができない時もあるので」
「いいんですか?助かりますけど」
「はい」ツァリアスさんは爪先立って、戸棚の奥のほうへ深皿をいれた。「なにかやっていたほうが、余計なことを考えずにいられるんです」