異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
廊下は長かった。左右の壁には布が張り巡らされていて、扉の有無は解らない。
リューに、アラン。エルンは居ない。あとは有象無象。そして、壁に張り巡らされたカーテン。
「こんばんは、マオ」
「こんばんは」
「また、新しい獲物かい?」
リューが冗談めかして云う。リッターくんは無表情で、きょろきょろしたりもせず、尋常じゃなく落ち着いていた。
俺はくすっと笑う。しかし、ジーナちゃんが心配で、頬が引き攣ってしまった。「ちょっとね」
「マオのお眼鏡にかなうなんで、君は運がいいよ」リューが片手を差し出す。「リューだ。宜しく」
リッターくんは儀礼的に握手をしてすぐ手をはなした。「リッターだ」
「リッター。こちらはアランだよ」
「どうも。マオ、意外と歳下好みなんだね?」
俺は、やだもお、とかなんとか云った。声が変なところで裏返る。緊張はしないタイプの筈だが、ひとの命がかかっていると思ったら無理だ。ミスしたらジーナちゃんもリッターくんも危ない。
禍殃とか穢土で全員気絶させる、と云う手を思い付いたが、ここに居るのが全員とは限らない。それに、この精神状態でそもそも魔法がつかえるのか、つかえたところで加減ができるのか、解らない。最悪リッターくんとジーナちゃんをまきこむことになる。
リッターくんは俺の腰にまわした手に力をこめる。どうにか口実を見付けて、ジーナちゃんの居そうなところをさがさなくちゃ。
一番簡単なのは、お手洗い、だ。酒をかっくらって、酔っちゃったあ眠たい、もありかもしれない。
頭が働かない。顔に出ていたらしく、リューが眉を寄せた。「マオ、どうしたんだ?顔色がよくない」
「あ……ちょっと。あの、お手洗いって、どこ?」
吐きそうな顔でもしていたらしく、リューは微笑んで、壁の一部を示した。
「案内しよう」
「いや」リッターくんが言下に云う。「場所を教えてもらえたら、俺が連れて行く」
「しかし……」
「リューさん。それでいいから。場所、教えて」
不自然だったかも、と思ったけれど、リューは壁際まで俺達を連れて行き、カーテンをめくった。扉があって、押し開ける。「突きあたりを右だよ」
「ありがとう」
リッターくんは平坦にお礼を云い、俺を抱えるみたいにして扉の奥へ行った。
突きあたりを右と云われたから、俺達は左へ行った。「急ごう」
「ああ」
やはり、もともと邸宅だっただけあって、部屋が幾つかある。俺達はそのひとつひとつを調べた。家具に布を被せてあって、埃まみれの部屋がほとんどだ。
リッターくんが、三部屋目から出て云う。「客室棟らしい」
「え、解るの?」
「もと、スターヨルガの邸だ。帝国ふうにつくられている」
成程。