異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
埒があかない。
俺は焦っていた。リッターくんに焦りは見えない。
「全部調べた?」
「ああ。後は、上の階だ」
リッターくんは、中途半端な位置に存在している階段を示す。階段には、みちきり縄みたいなものがきられ、どうにも近寄りがたかった。
あれってなんなの、とおそるおそる訊いてみる。魔法の道具、とかだったらどうしよう。
「まじないだ」
「まじない?」
「ああ。そもそもは、この先這入るべからずと云う意味だ。井でたまに見る」
ああ、意味は一緒なんだ。異世界なのに?
俺達は階段へ近付く。「ねえ、それって、効力は?魔法かかってたりする?」
「しない」リッターくんは淡々と云う。「だからまじないだと云ったんだ。効力があるのなら、国境はすべてこれで塞いでいる」
「あ。そっか」
「連邦ではやらない。裾野でも廃れている筈だ。一番これをつかうのは、神聖公国だな。それこそ、国境や領境にあるとか……」
リッターくんはそして、みちきりなわをまたいだ。俺も、思い切って続く。こわいよう。祟りなんてないよね?
下の廊下はうすぐらかったが、上の階はもっとくらい。視界は悪かった。
リッターくんはずんずん進む。くらいのになにひとつためらわない。
リッターくんがたちどまった。ささやく。「音がする」
音?
耳を澄ます。……慥かに、なにかがぶつかるみたいな音がしている。
リッターくんはそちらへ向かう。俺も引き摺られるまま続いた。途中で、幾らなんでもお手洗いに時間かかかりすぎてる、と思い至る。いいぬけられない。拙い。
俺の焦りを余所に、リッターくんは平然と、壁をてさぐりしてドアノブを見付けだす。かたっと軽い音をさせて扉を開ける。
音がやんだ。でも、気配がある。気配というか、熱源がある感じ。ひとが居る、と思う。
リッターくんは普通に部屋に這入っていった。俺も続く。光源がないのがもどかしい。よく見えないのだ。
がたっ、と音がした。びくついてリッターくんの上着を掴む。リッターくんは静かに云う。「誰だ」
くぐもった呻き声がきこえてきた。リッターくんは、その音がするほうへ向かう。この部屋は埃っぽくない。少なくとも、この二・三日の間には掃除されているようだ。
リッターくんが屈みこんだ。しゃりん、と剣を抜く音がする。俺は思わず目を覆った。
ぶちっとなにかの千切れる音が、複数回。リッターくんは剣を鞘へ戻す。……ていうか、剣持ってたのか?あの上着に隠してたんだろうか。
掠れたささやきがあって、光があらわれた。「マオさん……」
床に倒れながら、片手に灯を点し、げほげほと咳こんだのは、ツィークくんだった。