異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
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俺は一分くらいかたまっていた。その間に、ツィークくんは立ち上がり、ぺっと唾を吐き、鼻をこすり、服をばたばた叩き、激しく咳込む。
リッターくんはもう一度剣を抜いて、くいと顎をしゃくった。「そちらを照らしてくれ」
「ああ、はい」
ツィークくんが息を整え、リッターくんの示すほうを照らした。俺は悲鳴をのみこむ。動くずだぶくろが沢山あったからだ。
またしてもフリーズしそうになったが、リッターくんが袋を切り裂いたので正体が解った。人間だ。高校生くらいの女性。ずだぶくろに詰め込まれていたと思えないくらい、つやつやした髪で、もっちりした肌で、服装は絹地らしかった。
しかし、さるぐつわを噛まされ、両手は胸の前で、肘を曲げた状態でぐるぐるまきにされている。脚も、膝を折った状態でぐるぐるまきだ。
リッターくんがそれらを切り裂いていった。女性は怯えきっていて、呻き声ひとつあげない。「大丈夫か」
リッターくんが云う。女性はびくついて頭を庇った。返答はない。
リッターくんは、次々とずだぶくろを開封していった。中身は妙齢の女性がほとんどで、なかには小学校低学年くらいに見える子も居る。見たところ、男はいなかった。
ツィークくんがよろけたので、とっさに支える。
「だいじょうぶ?」
「……あなたはむちゃくちゃなことをしますね」
そうかもしれないので、否定はしなかった。ツィークくんは低く云う。「なにかあっても助けなくっていいって、云ったでしょう?」
ああ、云われたっけ。俺は小首を傾げる。
「それとは別件で。あの……彼女たちは?」
「ディファーズの行方不明者達だと思います」
「あ、そっか……ツィークくんは、どうして?」
「捜査の手が伸びるのをおそれたんでしょう。四月の雨亭へ買いものに行こうとしていたところを、がつん、です。俺が死んだら証言者がいなくなる」
ツィークくんは後頭部を撫でる。うう、痛そう。
「エラじゃないの」
「マールさん。ねえ、ここってどこなの」
「解んないわよ……」
女性達がかたまって話し始めた。リッターくんは剣をしまって振り返る。「ジーナは居ない。別の部屋をさがそう」
「うん」
「ちょっと、待ってください、ジーナって?」
リッターくんは俺の手を掴んで、部屋から飛び出した。
隣の部屋。からっぽ。家具さえない。
その隣。ベッドがあって、誰か寝ていた。複数。俺とリッターくんは息をひそめ、そーっと出て行った。
その向かいへ這入る。リッターくんが剣を抜いた。気配は俺も感じた。誰かは居る。でも、位置が低い。ベッドに寝ている訳ではない。
リッターくんがなにかを切った。しゃりんと剣をしまう。
ぼうっと灯が点る。頬にさるぐつわの跡の残ったジーナちゃんが、無表情に立ち上がる。溜め息を吐いて、ぎろりとリッターくんを睨んだ。「ミューは無事?」