異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
リッターくんも負けず劣らずな無表情だった。
「おそらく」
「おそらくですって?ミューになにかあったら、リッター・ロヴィオダーリ、あなたを八つ裂きにして海に沈めてやるわ」
ジーナちゃんは淡々と吐き捨て、俺に目を向ける。「ごめんなさいマオ、まきこんでしまったみたい」
「ううん。俺が自分で来たんだよ」
「ロヴィオダーリ卿がどうしておいでなのか存じませんけれど、マオが居るってことはミューも知ってるんでしょう?」ジーナちゃんは左のこめかみをさする。「また叱られるわね」
俺は、くすくす笑ってしまった。ジーナちゃんは、拘束されてはいたけれど、見たところ大きな怪我なんかはない。ドレスにも酷い破れや汚れは見えなかった。
リッターくんが小さなくしゃみをした。ジーナちゃんが、思わず、という感じで笑う。「……まったくもう。ここは埃っぽいわ。出ましょう」
「ああ」リッターくんは踵を返そうとして、停まる。「ジーナ、武器は持っているか?」
「とられたみたいね。ないわ」
ジーナちゃんは平然と返す。リッターくんは頷いて、懐から短剣をとりだした。。ジーナちゃんへ差し出す。「つかってくれ」
「……さすが、時計の国。長剣と短剣の二本持ち」
「備えは常にするものだ」
リッターくんの言葉にジーナちゃんはふっと笑い、短剣をうけとる。ためらうことなく抜いて、鞘をスカートへしまう。
三人で廊下へ出た。リッターくんは俺の腕を掴んではなさない。
「こういうものを殿方から戴くのは、親に禁止されているの」
「後で返してくれ」
「返せない状態になるかもしれなくてよ。暴漢の体のなかへ置き忘れると云うこともありますからね」
「では、紛失したということにしよう」
廊下にはツィークくんと、さらわれた女性達が居た。女性達は怯えた様子で手をとりあっている。ジーナちゃんを助ける予定だったのに、人数がどっと増えてしまった。どうやって逃げよう?
リッターくんが云った。「暫く隠れていてもらえるか?ユラが騒ぎを起こしたら、戻ってくる」
「解ったわ。それまでなんとかする。できたらもっとしっかりした剣を持ってきて頂戴。槍でもいいわ」
「善処する」
「ちょっとー、俺は無視ですか?」
ツィークくんが云うと、リッターくんはにこりともせず返す。
「ジーナとともに居てくれ。彼女たちもまもってほしい」
「ああ、そういう役まわりですよねえ」
「頼んだ」
「はい、頼まれました」
ツィークくんがおどけてお辞儀した。
階段から跫がする。リッターくんはちょっと思案げにして、剣を抜いた。女性達がさっと寄り集まる。
「すまん」
「えっ」
リッターくんは俺を片腕で抱き、喉笛にきっさきを突きつけた。