異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
俺は息をのむ。ジーナちゃんが女性達に声をかけた。「大丈夫。あなたたちは落ち着いて、わたしの指示に従って」
「ジーナ」リッターくんが剣を1mmも動かさずに云う。「お前が居た向かいの部屋に、何人か居る。俺はそちらへは対処できない」
「問題ないわ」
「リッターくん……」
下から複数人が上がってきた。ウエイトレスやバーテン、ディーラーをしていたおねえさん達、即ち私兵だ。ほとんどが武器を持っていて、ふたり、ランタンを高々と掲げている。「お前、何者だ!」
「静かにしてもらえるか」
リッターくんは感情の感じられない声を出して、右手を動かした。きっさきが俺の首に掠める。「こいつに怪我をさせたくなければな」
「マオさま」
私兵の先頭がたじろいだ。ジーナちゃんが突然、俺の左斜め前にあらわれる。スカートや頬に血が飛び散っていた。ひっと息をのんだのは、私兵達だ。見れば、三人、床に倒れている。ジーナちゃんが特殊能力をつかって気絶させてきたらしい。
「エンバーダートを敵にまわしたらどうなるか、考えなかったの?おばかさん達」
「ロヴィオダーリも敵にするのは拙いと思うぞ」
ふたりとも、どちらかというとのんびりした喋りかたで、緊張しているふうはない。
ジーナちゃんが消え、今度は俺の右斜め前にあらわれた。私兵がまたしても三人倒れ、ジーナちゃんは短剣を鞘へ戻す。「返すわ、リッター」
「ベルトにはさんでくれ」
「……あなたの両手が自由なときに返したほうがいいみたいね」
ジーナちゃんは短剣を鞘ごとスカートへ仕舞い、長剣をとりだす。どうやら私兵から奪ったらしい。「剣は自分で調達できたわ」
「ああ。流石だな」
「あなたに誉められても嬉しくないし、余分な口をきかないで頂戴。ミューに無事な姿を見せなくちゃ、あの子無茶をするわ」
「あいつは戦えないだろう」
「戦えるのよ」ジーナちゃんはリッターくんを睨む。「絶対に戦ってほしくないと云うだけ」
背後でドアの開く音がして、ジーナちゃんが消えた。
ぎゃっ、とか、うわあ、とか、短い悲鳴が幾つも響き、そして音がやむ。
ジーナちゃんはリッターくんの隣に戻ってきた。「魔力の消耗が激しすぎる」
「薬をもられたのでは?」
「そんなところでしょうね。さて、どうするつもり?マオを盾にしてどこまで行けるか、解らないわよ」
リッターくんはちょっと考えて、右手を横へ伸ばした。俺から剣が離れたその瞬間、私兵達が飛びかかってくる。
ジーナちゃんが剣を閃かせ、ツィークくんが熱魔法を打ち出した。目が眩む。捕まっていた女性達も援護してくれたようで、花火を上げたみたいに色とりどりの光が廊下にあふれた。
至近距離でなにかが爆発した。