異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ミューくんは、怒りでなのか、ジーナちゃんが死んでいない安心でなのか、にこにこしているが口調は冷ややかだ。「お前、強いんだろ。怪我したら治療してやる。戦え」
「解った」
突き飛ばされた。ツィークくんにぶつかり、抱きしめられる。「そいつを持ってろ。大切な人質だ」
リッターくんはツィークくんに云い、私兵へ斬り掛かる。見たくないものを見てしまった。指が数本宙を舞う。ツィークくんが、うえー、といいながら、俺の喉笛に剣をそわせた。「悪夢が増えたぁ……」
ミューくんが笑い声をたてる。
「ジーナに手を出すからだ。首でもなんでももげてしまえ」
「ミュー……」
「さ、ジーナ、こっちだ。もうこわくないよ」
ユラちゃんが溜め息まじりに云った。「一次で通る訳だわ」
私兵は続々と集まって来ていて、ユラちゃんが喚く。「あのイナカモノ達、なにしてんのよ」
「策は?」
リッターくんが平坦に訊く。ユラちゃんははやくちに返す。
「あの巡らせる者が壁を還元して、お花畑のお嬢さんが戦うそうよ。そちらのおぼっちゃんがひとりで飛び込んだから、まともに作戦も立てられなかった」
「ミュー、はなして」
「だめだってば。君はこれ以上ひとを傷付けたりしなくていい」
ミューくんは血だるまになっている。飛んでくる魔法も武器もまったく避けないからだ。すべてまともにうけて、そしてすぐに治療している。痛いのは痛いようだが、躊躇はない。「君みたいに優しい女性が、不必要に戦うことはないんだ」
「わたしは……」
ミューくんが剣による攻撃を避ける。首許を狙われたので仕方なく避けたらしく、不愉快そうに大きく舌を打つ。
「ジーナにあたったらどうするつもりだよ……」
「仕方ないわ」ユラちゃんが壁に穴をあける。「こっちから逃げましょ!」
ユラちゃんが壁の向こうへ行った。ジーナちゃんが女性達を促し、ミューくんと続く。リッターくん、ツィークくん、ツィークくんに抱えられた俺も続いた。
ジーナちゃんが懇願するように云う。
「ミュー、もう怒らないで」
「無理を云うなよ。君を傷付けた連中が生きてるんだぞ?」
「わたしは大丈夫よ」
「もう、痴話喧嘩なら逃げ切ってからにしなさい!」ユラちゃんが振り返る。「役立つんだから戦わせればいいじゃない」
「ユラ・レフオーブル、あなた、何を無責任な!」
天井が崩れ落ちた。
俺達はそれを避け、散らばる。俺はツィークくんの腕のなかから弾き飛ばされ、壁にぶつかって気を失った。最後に見えたのは、全身血に塗れながら、ジーナちゃんを両腕で支え、すっくと仁王立ちしているミューくんだった。