異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
四滝伽羅子は沈黙していた。
頭のなかではキョウスケの言葉が渦をまいている。キャラコは至極真剣に思いを巡らせるような表情をしてはいたが、しかしその実たいしたことは考えられていない。
死神。……って、なん?
考えられなくて頭が痛い。キョウスケの説明は要約されていて、とても解りやすかった。だからこそのみこみきれなくてキャラコは黙っている。
死神。職業のひとつ。
職業加護は「専用武器」「専用防具」「該当なし」。
「専用武器」……形状・性能・特殊能力・名前を設定して取得できる。取得しなおせない。
キョウスケの山刀は、その専用武器、らしい。名前は「小鳥」。刀身40cmだが、触らせてもらうと見た目よりずっと重たかった。特殊能力によって、魔力をわずかに強化し、与ダメージの20%分使用者の体力・魔力が恢復する。
羽織が「専用防具」で、同じく形状・性能・特殊能力・名前を設定したそうだ。名前は「調和」、特殊能力は被ダメージ5%軽減、魔力強化(小)。結構な防御力であるらしい。
そのふたつにはコスト上限があり、そのなかでやりくりして望みに近いものを選択しないとならない。組み合わせが悪いとつかいものにならない訳。でも、持ち主の能力値を底上げしてくれるし、使用者のレベル上昇に伴ってその効果も強まる。
そして、「該当なし」。
「人間に本来必要であるエネルギー摂取をしなくていいかわりに、生きものから生命力を奪わなければならない」。
キョウスケの云っていた、食べ尽くした、は、そういう意味だった。体力の回復を図るために、この辺りの生きものを片端から狩ったのだ。命を刈り取った、というべきかもしれない。加減がよく解らなかったから、殺さずに生命力を奪うのは難しくて、とキョウスケは頭を掻いた。
でも今は加減も巧くできるし、間違って奪わないようにキャラコさんには触れないよ、とも云っていた。
キャラコは考えることを放棄した。
キョウスケは、特殊能力もおかしなものを選んでいた。「言語:異世界」は解る。レベルは3で、読み書きも可能だそうだ。「巡らせる者」、これも解らないではない。還元と云う、物を素にできる力だ。素は魔力と同じようなもので、それが傍にあると魔力の恢復がはやい。
解らないのは、コストが相当高いらしい、「瞬間移動」だ。
瞬間移動と云ったって、好きなところへ自由自在に行ったり来たりできるのではない。使用者にとって縁の深い場所、縁の深い物のある場所、縁の深いひとの居る場所、にしか行けない。そして、相当魔力を消費する。
キャラコはぼーっとしてから、漸くと口を開いた。
「どうして瞬間移動なん?」
「ああ、そこなんだ。キャラコさんて面白いや」
「いや、おもしろうねえ」
「面白いよ。んーと、瞬間移動って、かっこいいじゃない?」
ハア?と云うと、キョウスケは笑った。楽しそうに、声をたてて。
キャラコはじとりとそれを睨む。「真面目に話してくれんかな」
「真面目だよ。それに、役立った。疑いをかけられて捕まった、っていう凄く縁の深いまちに瞬間移動して、せっけんや食料なんかを買えたから。ああ、お金はちゃんと工面したよ。動物の毛皮とか牙を売って」
……面白いのはどっちか。
キョウスケは焚き火へ薪を足した。辺りはくらい。
「最初は、どうしてこんな目にあうんだろうって、思ったりもしたけれど。凄く痛い思いもしたから。遺言まで書こうとして。ま、思いなおして、仲間をさがす為につかうことにしたんだけど。おもいいれが強いものなら、瞬間移動のポイントになるからね」
「……それで、なんかあてがあるん?」キャラコは再び考えることを諦める。「その、目標ちやつ」
「うーん。あんまりない」
がっくりきた。
キョウスケは立ち上がって、粗末な庇の下においてあるローブをとりあげ、キャラコの肩に着せ掛けてくれる。「おおきに」
「うん。はっきりしたあてはないんだけど、これじゃないかな、ってのはあるよ」
「……なん?」
キョウスケは屈み込む。いたずらの相談をするみたいな声を出す。
「ありがちなのは、魔王討伐じゃないかな」
キャラコはキョウスケを胡乱げに見た。