異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
目が覚めた瞬間は、自分がどこにいてなにをしていたか、まったく忘れていた。
だから、今日もいちにち隠れて過ごすのか、ああ買いもの行かなきゃ、それと妹に連絡して……と考えて、はたと気付く。
ここは異世界で、俺は未成年略取やら人身売買やらにまきこまれて、青少年が大人をばったばったと薙ぎ倒すのを剣をつきつけられた状態で見ていて、その後壁に思い切りぶつかって気を失ったのだ、と思い出す。
それで、この冗談みたいなベッドは何?
ツィークくんじゃないけど、悪夢が具現化したみたいだった。ふかふかの大きな(それはもう巨大な!)ベッドの上に寝かされてる。
シーツは絹。まっしろ。
ブランケットは触ったこともないみたいな上等な毛織物。グアナコだかアルパカだかの毛糸で織ったんじゃないかな。こっちの世界にしかいない不思議生物の毛かもしれない。どっちにしろ、目の玉が飛び出る程に高級なのは疑いようがなかった。液体でできてるみたいに重力に忠実なくせに、重さを感じない。そして、暑くも寒くもなかった。
天蓋は当然みたいに存在していて、その内側にはきらびやかな花模様。アクセントに羽根が描いてあるのが憎らしい。花も羽根も本ものみたいにリアルで、尋常じゃなく細かく描きこまれている。こんな作業やらされたら気が狂いそう。
そして、天蓋からさがる、極くうすくて透ける素材のカーテン。吐き気のすることに芥子粒みたいな宝石が織り込まれている。
そう、俺はほんとに吐き気を催していた。こんなに贅を尽くしていて、パーツパーツは素晴らしい芸術品なのに、まったくもって悪趣味なベッドは見たことがない。
薔薇みたいな香りの枕(薔薇のはなびらを詰めてあるのかもしれない、だとしたら気色悪すぎてもう一度気を失いそう)から起き上がり、とにかくベッドを降りた。うえー、履いてないみたいな履き心地のスリッパ発見。誰が履くか。
なんてことだろう。お姫さまみたいな寝間着にされていた。死ねばいいのに。
俺は半笑いで寝間着を脱ぎ散らかした。こちとら収納空間持ちである。服ならなんぼでん持ってるわ。
服をかえ、くつも穏当なものを履いた。髪を手櫛で整える。お金をかけるだけかけました!みたいなベッドを振り返る。もしかしなくても、ウロアのものだろう。それ以外に考えられない。
気を失った後、リッターくん達は俺を見捨てて逃げたのだろうな。それは仕方ない。俺が彼らの立場でもそうする。拘束を解かれたばかりで、尋常の精神状態ではないような女性達も居た。それに、俺ひとりを助ける為にジーナちゃんが危険にさらされたりしたら、もともこもない。
と、なると、俺は賭場の人間に助けられたってことか。リッターくんに脅されていたと思われていたし、一応酷い扱いはしないでくれている、と。