異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ロヴィオダーリ邸、庭、木を切る音が響いている。
「休んだらどう?」
「ううん、全然疲れていないの。リオ、昨夜はあまり役に立てなかったし、これくらいしなくちゃあ」
リオは額の汗を手の甲で拭い、サキを振り返る。ふたりの手には小振りの斧がある。サキとリオはリッターの許可を得て、ロヴィオダーリ邸の庭にある木を、還元しやすいように伐採していた。
サキは、リオへ微笑みを向ける。リオもにこっとして、木を切り続けた。
リオはこういう時、割合と冷静だ。できることを、無理のない範囲でやってくれる。サキがラカーダーナになじめなかった頃も、リオは無理のない方法で支援してくれた。結局サキは卒業まであの学校になじめなかったし、友達もつくらず浮いていたが、リオがそれを責めたことはない。
「裾野って、やっぱり危ないところなのね」
「……そうかな」
「女の子が誘拐されるのよ。危ないところだわ」
サキはなにも云わない。リオはいい子だが、ひとの話を鵜呑みにする傾向がある。ロア以外の国や地域はとても危険か、未発展か、野蛮なひと達が住んでいる、というのが、一部のロア人の考えかただ。ラカーダーナでも、生徒にはそういう思想の持ち主が多くて、サキはそれが苦手だった。というより、嫌いだった。
リオは素直だから、そういう考えをそのままうけいれている。リオの見ているロアは平和で、安全で、優しくて、豊かだからだ。
でもサキは、リオやリオにその思想を吹き込んだ者には同調できない。耳飾りをしていない男であると云うだけで、いやな思いもしたし、危険な目にもあった。ロアは決して理想郷ではない。
「去年、うちの領でも、娘さんが誘拐されたよ」
「あら、それは恋愛のもつれだったでしょ?今度のは組織的な犯罪よ」
どちらにしても被害者にすればたまったものではないのに、リオにとっては組織犯罪でなければいいようだ。
サキは、そう、と返した。リオには多分、解らないことだ。世間知らずのお嬢さまだというつもりはない。そうではなくて……リオは多数派なのだ。サキの気持ちは解らない。
リオは道具を持ち替え、切り株を掘り起こす。
「ジーナちゃん、休んでいたらいいのにね。こわい目にあったばかりなのに」
「そうだね」
サキは心の底から云った。「彼女は無理をしすぎだと思うよ。見ていられない」
震える声で、ミューに戦わないでと頼んでいた、ジーナの姿が、目に焼き付いて消えない。ミューは冷たかった。どうして……。
「サキちゃん、一休みしたら?」
「……ううん。僕は還元の恩恵を一番受けるから」
サキはしかし、一旦手を停めて、白みはじめた空を仰ぐ。
好きなひとに、みっともない姿は見せられない。それだけ考えていよう。余計なことを考えると、体がかたまってしまうから。