異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ミューくんが訊いた。
「生き証人の署名に意味があるの?」
「大丈夫だよ。やりかたがあるんだ」
俺にはいまいち意味の解らない質問だったのだが、サキくんは書面を次々整えながら云う。「生き証人に署名をしてもらって、そのまま提出についてきてもらうんだよ。当人に絶縁の意思を確認した、ってところに署名してもらうから、それを井で証言してもらう。これは本当だって」
「ああ、その手があったか……」
ミューくんは感心したみたいに頷いた。サキくんはミューくんへ笑みかける。
「僕が考えついたことじゃないよ。ロアでは最近主流なんだ。証人の負担を減らせるから」
サキくんが書類をつくっている間に、俺は私兵の数人に命じて椅子と、十人掛けのテーブルを持ってこさせた。けもみみさん達を座らせ、リッターくんがひとりひとりに丁寧に、商会がなくなること、借金は棒引きになること、を説明する。それから、ウロアとロント、エルンはふん縛って転がしておく。エルンは小さな宝石箱を手に逃げだそうとしていたらしく、そのまま縛りあげられたので痛そうだ。それも私兵にやらせた。ついでに、ミューくんが三人を気絶させてくれた。魔法ではなく物理でだ。命に関わらないかどうか見て解るので、ちょうどいい加減で気絶させられるそう。
あと、俺とウロアの世紀の一戦(笑)を見物していた皆さんには、休憩室にはいってもらった。娼妓と一緒になんて艶っぽいものではなく、十人くらいまとめて押し込み、扉の前に私兵を立たせて見張らせている。逃がしたら酷いよ、と云ったら、私兵達は居住まいをただした。
私兵も、見物人達も、俺がすべての権限を握っている以上、俺に逆らったら拙いと考えているらしい。まあ裁定者に勝ったやつだからな。おそれられても仕方あるまい。
「できました」
サキくんが羊皮紙の束をテーブルへ置いた。サキくんの手はインクで黒く汚れている。
アランがインク壺とペン立てを持ってくる。リューはまだ気を失ったままだ。ジーナちゃんがサキくんを見たり、目を逸らしたりしている。
サキくんは羊皮紙を示しながら、生き証人さんに云った。
「絶縁の意思を確認した上で、署名はここに。意思確認と云っても大層なことじゃありません。養い親と絶縁しますか、と尋ねて、はいと云ってもらうだけです」
「はあ……」
「書類が完成したら、一番近くの井に持って行きます。ついてきて下さい」
「……はい」
「サキ」
ジーナちゃんがおずおずと、サキくんに声をかけた。サキくんは驚いたみたいにそれを見る。
「なんだい?ジーナ」
「……手を洗ったほうがいいのじゃないかと思って。水を出すわ」
「ああ、ありがとう……でも、それくらいできるよ」
ああ、どうして断るのサキくん!