異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
焼きりんごをひとつ食べたら、リエナさんがすぐにおかわりを持ってきてくれた。「少しだけ顔色よくなったわね」
「そうです?」
「うん。マオ、今日から暫く、お茶の時間と夕食はわたしが担当するわ」
「え……いいんですか?おうち」
リエナさんは含羞んだみたいに笑う。「今、朝とお昼は忙しいけど、日が落ち始めるとひまなのよ」
「でも……」
「セロベルに許可は取ったわ」
それなら俺はなにも云えない。セロベルさんはここの最高責任者だからな。
セロベルさんが這入ってきた。「アーレンセ、交代してくれ」
「はい」
焼きりんごのお皿をワゴンへのせていたアーレンセさんが、それを押していった。セロベルさんは手を洗い、お茶を淹れる。「マオ、お前また無茶苦茶したらしいな」
「え?」
「なに、そらっとぼけてやがる」
ほらリエナ、と、セロベルさんはリエナさんにマグを渡し、自分もお茶を飲む。リエナさんはくすくすした。
「セロベル、東門に詰めてる警邏隊から、あなたのこと聴いたんですって」
「魔物と戦って、どろどろに汚れて帰ってきたら、門衛が笑いながらお前のこと喋りやがった」
「仕方ないわよ、うちのお客さんもその話するもの。お隣の料理人なんでしょって。悪党退治したのは」
悪党退治ときたか。俺は苦笑いする。
セロベルさんとリエナさんが目を合わせ、さっと逸らした。「商人協会の告知も見たわ。気前がいいって、みんなマオのこと誉めてる」
「いやあ。俺、計算苦手なので、面倒だからもう全部なしでいいやって。えへへ」
めんどくせえから全部なしで!と云う気持ちがないとも云えないので、嘘ではない。俺はどんぶり勘定なのである。
セロベルさんがマグを置いた。
「ありがとうな、マオ」
「はい?」
「うちの借金のこと」
「ああ」
肩をすくめた。「ここも過払いがありましたよ。貝貨45枚。協会へうけとりに行って下さいね」
にこっとすると、セロベルさんとリエナさんはくすくす笑った。
ミューくんとジーナちゃんが戻った。ふたりとも両手に大きな包みを抱えている。「あらジーナ!」
「リエナ……」
「よかったわ、もう会えないんじゃないかと思ってた」
リエナさんがジーナちゃんをぎゅっとした。ミューくんが微笑んでいる。
ジーナちゃんは含羞んで笑い、包みをテーブルへ置く。「試験の結果が出るまで、こちらでお世話になるわ、ミューも一緒よ」
「ミューも!」
リエナさんがミューくんもぎゅっとやった。「よかったわね!」
「あ、はい……」
ジーナちゃんが包みを軽く叩く。「市場まで行ったの。必要かと思って、はぶらしを買ってきたわ」
「おお、助かるぜジーナ」
セロベルさんに誉められて、にこっとするジーナちゃんを、ミューくんは嬉しそうに見ていた。