異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「買いものかい」
「ああ。俺達、マオさんとこに泊まってるんだ。四月の雨亭」
「そっか。ジーナ、元気そうでよかった」
サキくんに話しかけられ、ジーナちゃんはこっくり頷いた。「あなたも」
「この間は不躾なことを云ってごめん」
「いえ」ジーナちゃんは言下に返す。「わたしこそ、なにも云わないで、失礼だったわ」
「なにかあったの」
ミューくんがのんびり尋ね、サキくんが苦笑いする。
「僕がろくでもない軽口を叩いて、彼女を驚かせちゃったんだ。君の許嫁に無礼を働いてしまって、ごめんよ」
「ジーナ、そうなの?」
ミューくんはジーナちゃんへ顔を向けて云う。ジーナちゃんは小さく頭を振った。
「ううん。わたしが過剰に反応しただけ。気にしすぎたわ」
「そう……サキ」ミューくんはサキくんを見た。「ジーナもこう云ってるし、そもそも君は彼女をおどかそうとして云った訳じゃないだろ?だったら、気にしないでくれよ」
「……君はひとができてるなあ」
サキくんは困ったような嬉しいような複雑な表情で、結局くすっと笑った。「敵いそうにないね」
「え?」
「ううん。試験官はやっぱり見る目があるんだなって思ったんだ。君を一次で通したんだから」
ミューくんは苦笑いして、そんなことないよと云う。サキくんはにこにこしていた。
サキくんは、朝ご飯を食べるお店をさがしていたそう。
ミューくんがサキくんの後ろや、四辺を見た。「ひとりかい?」
「ああ、そうだね」
サキくんはくすっとする。「一昨日、思ったより叱られなかったんだよ。それで味を占めて、反抗してみた」
「ハンコウ?」
「そう。どうせ裾野滞在ももう長くはないだろうし、僕はひとりでも平気だから、自由にでかけさせてくれって。交渉するのは戦うのよりずっと楽で、拍子抜けだよ。もっとはやくしていたらよかった」
ミューくんが、ああ、と気が抜けたみたいな声を出し、ジーナちゃんがぷっとふきだして顔を背けた。口許を覆う。「ごめんなさい。でも、ミューも同じだわ」
「同じ?」
「自分の家族にも、わたしの家族にも、詰め寄ったの。それから、マイファレットやグークマとは二度と関わらないって」
「金輪際だよジーナ。みかけたら縊り殺すとも云ったね」
淡々と訂正するミューくんに、サキくんは一瞬目を瞠る。
「それは……凄いな」
「いや。俺は無駄に我慢してたんだよ。自分の為にもジーナの為にも、もっとはやくはっきりさせておくべきだったんだ。でも、親になにか云ってもだめだって決めてかかってて。それに面倒だったんだ、親といいあいをするのが」
ミューくんは皮肉っぽく鼻を鳴らした。「やってみたらなんでもなかった。あのひと達は、能力値では俺に勝るけれど、特殊能力では俺が有利だからね。結局、遠慮したほうがまけなんだよ」