異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
おかずを詰めた木箱を、ツィークくんはどんどん収納していく。「あれだったら、運ぶの手伝おうか?」
「なんとかなりますから-」
ツィークくんは手を停めて、こちらを向いた。それから、ちょい、と、前髪を一瞬退ける。
「あ」
「今朝気付いたんですよぉ。ファバーシウス家の癒し手は凄いと聴いてましたけど、ここまでとはー……」
左眉山から目蓋にかけての傷痕が、うすくなっていた。よく見ないと傷痕と解らないくらい。
ツィークくんは前髪をもとに戻して、作業を続ける。
「よかったね」
「はい。右目はもっと酷かったんですけどねぇ。そっちも、多少見えるくらいになりました」
え、そんな酷い怪我してたの?
ツィークくんは、潜入捜査したり、結構危ない橋を渡っているみたいだから、怪我も多いのかな。拉致のこともそうだけど、可哀相だ。
憐れを催して、着服しているお菓子の包みを調理台へ置いた。ごまクッキーと、生姜ビスケット、フラップジャックスもどき。「はい、ツィークくん」
「マオ!」お茶を淹れているサッディレくんが喚いた。「だから……!」
アーレンセさんがサッディレくんの口をぱっと塞ぐ。サッディレくんがもがいた。ツィークくんは前髪を透かして胡乱げにそれを見て、こちらへ向く。
「なんですかあ」
「ツィークくん用のお菓子」
「はあ?」
「ツィークくん、色々大変でしょ。労ってあげたいなって」
「……マオさん、そういうのやめたほうがいいですよ?」
??
しかし、ツィークくんはお菓子の包みを収納した。ありがとうございます、とちゃんとお礼を云って。
それから、色々と報告。
商人協会の告知はきちんとなされた。かかった費用は貝貨360枚くらいで、ラッツァクの金庫から出したそう。それと、過払い分を取りに来るひとも幾らか居て、なかにはけもみみさんの家族も居た。ただ、その大半が、お金をもらって逃げてしまうらしく。
そうなりそうだなあ、とは思っていたのだけれど、まあ、いいのか。そういう家族のもとに返ったら、また借金のかたにされそうだし、それなら縁を切ったほうがいい。けもみみさん達には別口で慰謝料も渡すつもりだし。
「お金、足りそう?」
「土地建物を処分すれば、なんとかなるそうです」
「そか。……耳持ちのひと達と、さらわれたひと達には、それとは別で、おわびのお金を渡したいんだけど」
「ああ、云ってましたねえ。レミアン達に算出させておきますよ。彼らに、接待の手当として支払われた金額は、帳簿がありましたから」
売春の強要の場合、売り上げの三倍から五倍が慰謝料の相場だそう。今回はお客からお金をとってはいないけれど、手当の倍から三倍が本来お客から支払われていたであろう金額と判断されるので、それをもとに割り出す。そういう判例があって、今回もそうなるだろう、とのこと。