異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
さらわれて売り買いされたひと達には、拘束された日数×銀貨30枚+売値の三倍、くらいが相場みたい。
ただ、と、ツィークくんは声を低めた。「耳持ちのひと達は、前途有望とは……」
耳持ちと尾持ちは、差別が酷いんだっけ。うーん。そこまで考えてなかった、どうしよう。
ツィークくんはお礼を云って、帰って行った。またきてねー、と手を振ると、サッディレくんの機嫌が目に見えて悪くなる。
耳持ちのひと達をどうフォローするか、を考えながら、ご飯を食べた。サキくんからお誘いがあったので、ミューくんジーナちゃんとともに、食堂でだ。俺とミューくん、サキくんとジーナちゃんが向かい合う席順である。
サキくんは朝食を終え、カウンタで売っているクッキーを買って楽しんでいる。オーツ麦をまぜこんだ生地で、しっかりした嚙み応えのあるやつだ。サキくんはにこっとして、ミューくんのトレイへクッキーを一枚のせる。
「お裾分け。おいしいよ」
「ああ、ありがとう」
ミューくんはクッキーにいちごのシロップ漬けをのせて、かじる。「うん、旨いね」
「ああ、その手があったか。僕もやっとくんだった」
ジーナちゃんが微笑んで、俺へ耳打ちした。「男の子達って、こんなふうにすぐ仲好くなれるのね。羨ましいわ」
「ジーナ、マオさんと内証話かい?俺もまぜてよ」
「だめ」
ジーナちゃんはにべもない。サキくんとミューくんはくすくすした。
「そういえば……」サキくんが笑いをひっこめた。「ユラと、リッターは、元気なのかな」
「リッターならここまで来たよ。馬車事故にまきこまれて怪我してたけど、俺が治した」
「はねられそうになった子どもを助けたのですって」
サキくんがぷっとふきだす。「彼らしい」
「そうお?リッターが子どもを助けるなんて、ちぐはぐな感じだわ」
「そんなことないさ。彼はいいひとだよ。とてもね」
ジーナちゃんは納得がいかないのか、小首を傾げた。
ミューくんがオムレツをフォークで押し切る。
「ユラはどうなんだろうな。シアイル貴族だから、お跳ねをしたってそんなに咎められないだろうけれど」
「わたしはレッシュにいさまに叱られたわ」
「ジーナ、あれは不当ないいがかりだぜ。叱られたんじゃなく喚かれたとすべきだ」
ミューくんが皮肉っぽく云った。ジーナちゃんは肩をすくめる。「でも、ディファーズへ戻ったらどう思われるのか、というのは、わたしだって心配よ。云い返せやしないし……」
ディファーズでは女性の立場が低いのだものな。それに、ジーナちゃんがさらわれたとなれば、ミューくんの許嫁をひきずりおろすチャンスととらえるひとは居るだろう。