異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「なんてことないね。もし君になにか文句をつけてくるやつが居たら、すぐ俺に教えてくれたらいいんだ」
ミューくんは鼻を鳴らした。「癒し手ってのは情報がはいって来やすいんだ。そいつの醜聞をばらまいてやる」
「まあ、ミュー」
「君ってやつは、変なところで遠慮するからな。もっと俺を頼ってくれよ。こっちは親とは渡り合うつもりだからね」
サキくんが優しい表情でふたりを見ている。
「ミュー、君は結構勇ましいな」
「勇ましい?とんでもない。やぶれかぶれなだけさ。どうせ親にも親族にもみはなされてるんだ。これ以上利用されたくはない」
「ミュー。あなたはみはなされてなんかいないでしょう」
「チェスが居る。昨日、君にだってはっきり解ったろう?俺に求められてるのは、お大尽の娘とえんづくこと、ただひとつだよ」
そんなことは、と、ジーナちゃんは語尾を震えさせた。ミューくんは、ジーナちゃんの手を掴んで、優しく云う。
「ジーナ、君が気にすることじゃない。悪いのはうちの親族で君じゃないんだから」
「……でも」
「とにかく、君に関して無責任なことを云うやつが居たら、俺は断固として抗議するね。痛い目を見せてやる」
ミューくんはもう一度鼻を鳴らしてオムレツを頬ばった。
三人は暫く、筆記試験での出題や、実技試験での怪我について話していたが、ジーナちゃんがおずおずとサキくんに訊いた。
「彼女……リオは元気?」
「ああ、多分ね。会えていないんだ」
「え……」
サキくんは困ったような微笑みだ。「リオは髪を切ることもいやがっていたし、僕とふたりで抜け出したり、そこへ今度の騒ぎだから、流石にお灸を据えられているみたい。彼女のことだから、これで懲りたりはしないよ」
「……あなたと彼女って、許嫁ではないの?それでも会えないのね」
「僕とリオが許嫁?」サキくんは目を瞠り、それからははっと笑った。「そう見えていたの?困ったなあ。彼女とは親戚で、小さな頃から仲好くしているってだけだよ。許嫁なんて」
ゆるく頭を振るサキくんを、ジーナちゃんはちょっと吃驚したような顔で見ている。ミューくんも驚いた様子だ。
「俺も、君たちは婚約しているんだと思ってた。仲がいいから」
「ああ、なんていうかな。きょうだいみたいなものなんだ。そういうことじゃないさ」
「ロアの女の子は元気なんだな。あんなふうに腕を組んだりするのは、ディファーズじゃあいいかわしてる同士くらいだ。ねえジーナ?」
「あ、ええ、そうね。でもわたし……そうだったのね。てっきり、サキとリオは、……」
ジーナちゃんは口を噤む。サキくんとリオちゃんが婚約をしていないし、サキくんにとってリオちゃんはきょうだいみたいなもの、と聴いて、安堵しつつ混乱している、という感じだ。