異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ジーナちゃんは素振りを続け、ミューくんは隠密で見えなくなるジーナちゃんを捕まえ続ける。ふたりはそうしながら、毎日午后に様子を見に来る、エンバーダート家の使用人から聴いたこと、を話してくれた。
マイファレット家・グークマ家ともに、今後一切ディファーズへ戻ることはまかり成らぬ。ディファーズ国内で両家の者を見付けた場合、子細かまわず殺してよい……と、神聖公のお触れがあった。詰まり、両家は絶対にディファーズへは戻れないのだ。殺してよい、は、殺せの意だから。
じゃあどうするのかと云えば、ロアやシアイルにも居場所はないし、裾野へとどまり続けるのだろう、とふたりは云った。
ロアにしてもシアイルにしても、信仰の様式が違うので、今更なじめない。言葉の問題もある。その点、各地の人間が入り乱れていて、しかも女性ひとりでも身をたてられる裾野なら、暮らしやすい。
マイファレット夫人は職業が縫製士だし、毒から復活した次男さんは陶芸家だから、さがせば仕事はある。ランクにこだわらなければ、三人で不自由なく暮らせる。絹のドレスは二度と着れないかもしれないが、困窮することもない。
「その点、運がいいと云うべきですよ、彼らは。マイファレット卿がひたすらためこんでいたおかげで、賠償金に関しては心配がない」
「寧ろ、ヴェーティヨンは毒を盛られ続けた被害者だから、貝貨8枚相当のものを持っていっていいと沙汰があったの」
「彼は優秀だから、お金だけを持って、美術品だの神聖公ゆかりの品だのには目もくれなかった。今は、母親と妹と、その金で住まいを借りて、陶芸家の働き口をさがしているとか……」
ジーナちゃんがぱっと姿を消し、ミューくんがそれを捕まえた。ジーナちゃんは肩をすくめる。
「敵にあなたみたいなひとが居たら、わたし手も足も出ないわ」
「そいつを最初に気絶させてやったらどうだい?」
「それはいい考えね」
冗談めかしたミューくんの言葉に、ジーナちゃんは真面目に頷く。ミューくんが苦笑いした。
ミューくんがこちらを振り返る。「マオさん、どうしてアエッラのことを気にするんです?サッディレさんから聴きましたけれど、あいつここでもそうとう無礼な態度をとったんでしょう」
「あー。うん。そうかな。まあ、お客さんには、一定割合ああいうのはいるから、さほど気にならないよ」
おじさんの旅館にも、あのてのお客さんは来てたから。ユラちゃんタイプもね。
悪質なクレーマででもない限りは別にかまわない。お店に対してちょっと失礼なことを云っただけだし。
それに、俺が注意したってなんの得もないし。リッターくんにもどかしさを感じるのは、リッターくんがやればできると思っているのと、リッターくんが好もしいからだ。マイファレット嬢は態度がよくなろうとそのままだろうと俺には関わりない。だから注意もしない。事件にまきこまれて可哀相だなと思うし、困ってるなら助けてあげたいなとも思うけど、それも俺の自己満足だ。