異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「なんていうかな。そこまで悪い子でもないみたいだし、酷い目にあうのは可哀相かなってだけだよ。ミューくんだって、ちょっと失礼なことを云われたくらいで、死んだらいいのにとは思わないでしょ?お父さんやお兄さんが悪いことして捕まって、自分とお母さんは地元に戻れなくなるって、それくらいの衝撃だと思うんだよねえ。それまで信じてたものとか、これからの予定とか、全部崩れちゃう訳だから」
特に、頭がそこそこ残念なマイファレット嬢には、世界がひっくり返るみたいなものだろう。そこで道を踏み外したら、迷惑を被るひとが少なからずいる。ジーナちゃん辺りが逆恨みされるのもこわいし、そこまで酷い目にはあってほしくない。……家族が逮捕されただけで充分酷い目にあってるか。
ミューくんが渋面になる。「マオさんはひとができてますね」
「そうかなあー」
「うちの家族に聴かせてやりたいくらいですよ。マイファレットが捕まった途端、掌を返しましたから」
それも解らないでもないかな。裾野内での行動が、なに経由で本国へ伝わるか解らない。閉門になった家の人間と親しくしていたら拙かろう。政治的な判断というやつ。
「そういえば、ちぇすくん、今どこにいるの?マイファレット邸に泊まってたんだよね」
「ラスターラ卿が手をさしのべてくださったんです」
えー、ラスターラ卿が!
ファバーシウス家の面々は、アデイールさん以外、ラスターラ邸の離れに泊まらせてもらっているそう。ラスターラ卿って、ディファーズ国内で力があるだけでなく、裾野内のディファーズ人のまとめ役みたいなところもある、らしい。だからジーナちゃんはラスターラ卿の顔を知っていたのか。
ラスターラ卿は、気前よくただで泊めてくれているそう。勿論チェルノーラ夫人が、うちの邸に、それがいやならうちの宿に、と誘ったけれど、断って。
「あまりうちと親しくすると、勘違いされるものね」
ジーナちゃんの皮肉っぽい言葉には、ミューくんは肩をすくめた。
「君の母親が、元気にあちこちでその話をするだろうからね」
「まあミュー、随分優しいわ、そんな穏やかな表現をしてくれて。ありがと」
「君ってやつは。ちくちく突き刺すみたいな真似はやめてくれよ」
ふたりはくすくす笑い、ジーナちゃんが姿を消した。ミューくんは木の陰に隠れているジーナちゃんを捕まえる。それから思い出したみたいに振り向いた。「ねえさんは、結局うちから縁を切られたみたいです。今どうなってるのかは知りませんが、ディファーズに戻ったってどうもしようがないだろうし、アエッラ達みたいに裾野で暮らすことになるのじゃないかな」