異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
まかないを食べて、三人は今日こそ武器屋さんに行くと出て行った。俺も買いものをしたいので、まかないの後に片付けをちょっと手伝ってから四月の雨亭を出る。心配だからとサッディレくんがついてきた。
「どこ行くの」
「西。ユス商会ってとこ」
昆布とかつおぶしを買いにな!!
広場の辺りまでくると、子ども達のはしゃぎ声が聴こえてくる。還元過多からずっととじこめられていたのだろう、縦横無尽に駈けまわっている子が、真っ正面からぶつかってきた。
抱きとめる。「あらら、大丈夫?」
五歳くらいの男の子だ。大きく頷いて、手の甲ではなみずを拭って奇声を発しながら走って行く。子どもの頃って叫びながら走るだけでなんか楽しかったよなあ。あれってなんなんだろう。ルールのよく解らん、しかも途中でルール変更が相次ぐ遊びも、なんだかんだで楽しかったし。
パンケーキ屋さんに子どもの行列ができている。看板に、ひとつエスター10個、とあった。鉄板で大きく焼いたものを、新書くらいのサイズに切り分けて、糖蜜を塗ったくって折りたたみ、紙で包んで売っていた。もとの世界で云ったら、駄菓子屋さんみたいなものかな。おいしそう。
「あ」
また、子どもがぶつかってきた。子どもは予測のつかない動きをするので、運動神経の悪い俺には避けられるようなものではない。
さっきの鼻水の子だ。「また会ったね。だいじょうぶ?」
「……おかし」
ん?
男の子は、大声で泣きはじめた。見れば、足許にパンケーキの残骸がある。勿体ない!
サッディレくんが呆れ顔になった。
「あーあー。食べもの持って、走りまわっちゃだめっすよ。マオ、なんか甘いもの持ってない?」
「持ってる」収納空間から、切り分けたパウンドケーキの包みをとりだした。屈み込んで、男の子にさしだす。「はい、ぼく。これ食べていいよ」
「走りまわっちゃだめだからな-」
サッディレくんが釘を刺す。男の子は涙塗れの顔を、袖口で拭った。まだぽろぽろと涙をこぼしながら、包みを両手でうけとる。「……くれる?」
「うん。パンケーキ、残念だったね」
「泣きやめよ」
サッディレくんが屈み込み、手巾で男の子の頬を拭った。それから洟をかんでやっている。「新しいお菓子があるんだから、めそめそしない」
「……おにいちゃんたち、あんがと」
「ありがとうございます、なー」
男の子は可愛らしくお辞儀した。「ありあと、ございます」
「うん。それでいいぞー」
「ねえ、お友達も一緒?」
男の子は頷いて、ひょいひょいと指差す。
「がーちゃん。あっち、みるる。るち。そんでね、みう」
「そっか。じゃあ、お友達にもお菓子あげようね。つれてってくれる?」
ひとりだけ別のお菓子はもめごとのもとだ。手をさしのべると、男の子はしっかり頷いて、俺の手をとった。