異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
カイザサイグ嬢と侍女達が出て行き、ユラちゃんもそうするのかと思いきや、なんだか難しい顔で立っている。レフオーブル家の侍女達は、ユラちゃんの指示待ちでじっとしていた。
「ユラちゃん?」
「……ねえ、ジーナは居るの?」
「ああ、うん。居るよ。呼ぼうか?」
ユラちゃんは迷って、頭を振る。それから厨房を示す。「這入っていいかしら」
「いいけど……」
なんだろう、と思っていると、ユラちゃんは頷いて、中庭へと出て行った。俺はとことこと厨房へ戻る。
お皿を洗っているジーナちゃんへ云った。「ジーナちゃん、ユラちゃんが、なにか話があるみたいだよ」
ジーナちゃんは俺へ顔を向ける。いやそうだった。
「……居ないと云ってくれない?」
「やー、もう居るって云っちゃった」
ジーナちゃんは溜め息を吐く。手をすすいでタオルで拭くタイミングで、ユラちゃんが中庭側から這入ってきた。「失礼。……ジーナ、ちょっといいかしら」
「……なあに」
ジーナちゃんはユラちゃんへ体を向ける。ユラちゃんは精一杯背筋を伸ばし、胸を張っているが、ジーナちゃんを仰ぐ格好になった。
ジーナちゃんはかすかに首を傾げる。テーブルでお菓子を包んでいるミューくんサキくんが、心配げにふたりを交互に見る。
ユラちゃんは、顔をしかめ、腰に手を遣って、不承々々、という感じで云った。
「悪かったわね、色々、きついことを云って。謝るわ。ごめんなさい」
ジーナちゃんは口を半開きにしたし、ミューくんは目をいっぱいに開いていて、サキくんは激しく瞬いた。
ユラちゃんはジーナちゃんから目を逸らし、口を尖らす。
「お兄さま達が話してるのを聴いたのよ。もとファバーシウス家だった、ディファーズの貴族が、ろくでもない手段で稼いでるらしいって。てっきりエンバーダート家だと思ったのよ。マイファレットだのグークマだのは、シアイルじゃ名が通ってないわ。だから……詰まり、わたし、勉強不足で知らなかったの。だから、勘違いしてあんたに意地の悪いこと云ったわ。ごめ」
「ちょっと、やめて頂戴。もういいわ」
ジーナちゃんが震える声で遮った。笑うような怒るような顔になっている。「ユラ・レフオーブル、あなたに謝罪されるなんて、気持ちが悪いわ。もう結構」
「なっ、気持ち悪いとはなによ!」
「だってなんだかおかしな感じなのだもの。いやだわ、この辺が変な感じ」
ジーナちゃんは鎖骨と鎖骨の間を軽く押さえ、小さく笑った。「それに気持ち悪くなくても謝罪は要らないわ。エンバーダート家はとっても裕福だから、悪く云われることも多いの。今更気にならなくってよ」