異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ジーナちゃんは、ミューくんを振り返る。「ミュー、なんだか……変な感じなの。大丈夫かしら、わたし?」
「問題ないよ」ミューくんは笑いをこらえているらしい。頬がひくついていた。「君は寧ろ、楽しそうに見えるね。その気持ちの悪さは、笑ったら治まるさ」
「そう?……あなたが云うならそうなのね」
ジーナちゃんは、小さく声をたてて笑う。表情も、可愛らしい笑顔になっていった。
「あら……ほんとだわ。ちょっと……息苦しいのが、よくなったみたい。でも……ああ、ユラ、あなたっておかしいわ。そんなことを、真面目に謝りに来るなんて」
ジーナちゃんが笑い声を高くする。ユラちゃんはかっと赤面した。
「わたしはシアイルの、侯爵家の人間よ!?間違ったときには潔く謝るわ!それを、笑わなくったって、いいじゃないの!」
ジーナちゃんだけでなく、ミューくん、サキくんも笑い出した。それどころか、セロベルさんが調理台に手をついて肩を震わせている。アーレンセさんとサッディレくんも、笑いをこらえているのがありありと解った。
ユラちゃんがこちらを見る。「マオまでなに、にやにやしてるの。間違ったんだから謝るのは当然でしょ!なにがおかしいのか、全っ然解らないわ!」
「いや、おかしくはないよ。これは、間違ってるって笑ってるんじゃなくってさ。ほら……あんまりにも正しいことをされると、かえって面喰らっちゃうって云うか、そう。正しすぎて、変な感じ」
「はあ?」
「でも、ユラちゃんは間違ってないし、凄く勇気があると思うよ。尊敬できる」
ユラちゃんは鼻に皺を寄せたが、くるっとミューくんへ体を向けた。「ミュー、あんたにも謝らなくちゃね。許嫁を侮辱したわ。ごめんなさい」
「いや、うん。ありがとう。解ったよ、俺はそのことについてもう怒らない」
「あんたはまともなほうね。ジーナもミューくらいまともな反応しなさいよ!」
ミューくんが左の掌を見せ、ユラちゃんが喚くと、ジーナちゃんはとうとう大声で笑った。かつてないくらいの大きな声で、おなかを抱えて笑っている。
ミューくんが立ち上がって、ジーナちゃんに駈け寄った。ユラちゃんはぴょんぴょん跳ねる。「なによ!謝ったのに!実技の授業でこてんぱんに伸してやるから覚悟しときなさいよねっ、ジーナ・エンバーダートっ!」
ユラちゃんは大きく鼻を鳴らし、どすどすと跫をたてて出て行った。
ジーナちゃんは、ミューくんに凭れかかって、なおもくすくす笑っている。「ああ……なんって面白いのかしら。ユラって、そんなに悪い子じゃないみたいね」
「それどころか凄くいい子だよ。今なら君を見付けられないかもしれない」
ジーナちゃんはその意味が解らなかったみたいで、笑いすぎて出た涙を指先でついと拭い、小首を傾げていた。