異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
レアディさん達がご飯を食べ終えて帰って行き、食堂がにぎわいはじめる。セロベルさんは今日の主役のくせに、給仕に走りまわっている。
ミューくんとサキくんも、お客さんなのに給仕をしてくれている。見目麗しい少年ふたりがにこやかに給仕をしてくれるので、女性のみならず男性もうっとりだ。ふたりがアーチの辺りでお喋りしているだけで、女性達のこそこそ話がとまらない。
からになったティーポットをミューくんからうけとり、ジーナちゃんは中身のはいっているティーポットを渡す。心無し、不機嫌そうだ。「ミュー、あなた鏡って知ってる?」
「おいおいジーナ、幾らファバーシウス家が裕福じゃないからって、鏡くらい知っているよ」
「わたしは、鏡のつかいかたを知っているのかって訊きたかったのよ」
「え、俺、なにか変かな?髪なら梳かしたけど」
ジーナちゃんはむくれてしまった。「もう知らない」
ぷいと顔を背け、ジーナちゃんはティーポットを洗いにかかる。ミューくんはきょとんとしていたが、笑いをこらえるサキくんに促されて食堂へ行った。
まかないを食べた後、お握りをつくりにかかった。つくってへぎに包み、収納しておけばいい。
具材は、かつお田麩、生姜の甘露煮、きのこの塩焼き。みっつはいって銀貨1枚だ。量も多くないし、甘いものもついていない。売れない気がする……売れ残ったら責任持って俺がかいとるからよしと云うことで。
こちらもまかないを食べたミューくんが、恢復魔法をかけてくれた。火傷を治してくれるのはとてもありがたいのだが、また魔力切れを起こさないかな。
へぎに包んだお握りをひょいひょい収納していると、ミューくんが左手の指環を見てにこにこしはじめる。「その指環、綺麗だね」
「そうですよね。俺、友達とこう云うの交換したの、初めてです」ミューくんは本当に嬉しそうだった。「あんまり……友達って居なくって。家のことがあるんで、サキみたいに普通に接してくれるやつは初めてなんです」
リッターくんは、と思ったが、ランツィス・ファバーシウスの大ファンで、だからミューくんと仲好くなりたいんだもんな、あの子は。サキくんは、……うーん。お友達と云うよりも、ミューくんをよきライバルとしてみているのでは。ジーナちゃんのことがあるからさ。
黙ってしまった俺に対し、ミューくんは含羞んだみたいに笑う。
「サキもうかってるといいなあ。ファバーシウス家の人間で、一次で通ったなんて、絶対誰も普通に接してなんかくれませんよ。俺は普通なのに」
刺されても平然としてるのは普通じゃないと思うよミューくん。